イーダー通信

写真から見る「宝石の街ドイツ、イーダー・オーバーシュタイン」続編

2024年1月31日

前回(2023年12月号)の「写真から見るイーダー・オーバーシュタイン訪問記」に予想以上のご好評をいただきましたため、続編をお伝えすることにいたしました。前回に続き、写真盛りだくさんのアルバム形式でお伝えします。

(番組ガイド誌「GSTV FAN」 2024年2月号掲載記事をWEB用に再編集しております)

― イーダー・オーバーシュタイン訪問記 ―

近年、番組ロケや買付などで個別に訪問することが多かったため、ストーンカメオミュージアムの古屋館長、カメオ専門会社のエキスパート桐戸氏、そして私の3人が揃ってのイーダー・オーバーシュタイン訪問は実に5年ぶりであることは前回もお伝えしました。視点が増えることで気づきや発見は増えるものです。
次回はスーパーバイヤーとともに4人での訪問を叶えたいと思っています。
ご紹介したい訪問先はまだまだあるのですが、誌面の都合で今回は2か所です。

エルヴィン・パウリー

巨匠エルヴィン・パウリー氏

 日本にも非常に多くのファンを持つ巨匠エルヴィン・パウリー氏は、本年2月で90歳を迎える。私が知る限り最高齢の現役カメオ彫刻家。奥様と一緒に自宅兼アトリエの玄関でお迎えいただき、力強い声での挨拶には変わらぬパワーを感じた。

奥様と一緒に自宅兼アトリエの玄関で

彫刻のレクチャー

 今回が初めての訪問となるメンバーもいたためか、彫刻台に向かい彫刻のレクチャーが自然と始まる。説明をしながら、わずか10分ほどのうちに、直線を組み合わせた星のモチーフの美しいインタリオを彫って見せてくれた。こういったサービス精神旺盛な彼の姿は、昔からたびたび目にしているが、彼のこの実演と解説も多くのファンがいる所以であろう。

美しいインタリオ彫刻を実演するパウリー氏

製作中の美しい黄色のメノウ原石

続いて、美しい黄色のメノウ原石を手に取り、色々なアイディアが浮かび構想がなかなかまとまらないと打ち明けてくれた。

美しい黄色のメノウ原石を手に取るパウリー氏

確かに前回訪問した際に見た時(2022年10月号参照)から進んでいない様子で、古屋氏、桐戸氏も交えて意見交換をした。めったに出会うことのできない素晴らしい原石である場合、さまざまな経験を持つ巨匠でもあれこれ悩む時があるのだろう。私には、意見交換している際はとても楽しんでいるように見えた。

製作中のカメオと一緒に撮影

いつ完成するかは誰にも分からないが、私はどのような作品に仕上がるのかとても楽しみである。

アンドレアス・ロート

ロート工房

 久々に訪れたロート工房にてまず驚いたのは、小さな頃から知っているアンドレアス氏のお嬢さん・アンジェリーナさんが、とても大人になりお父さんと同じくらいの背丈になっていたこと。心から嬉しい再会である。

ロート工房

秘蔵の作品


近年は、アメリカのコレクター向けオブジェ作品を中心に彫刻しているとのことで、その中でも最近彫刻した秘蔵の作品を見させていただく。見た瞬間に、あまりのダイナミックさと、カメオ自体の大きさに目を奪われた。一定ではないものの白い層が非常に分厚く、色の幅も大きいメノウ原石であるからこそ、この表現が実現するのであろう。

いつも的確なドイツ語通訳をしてくれる桐戸氏も作品に見入ってしまい、無言の時間が続いた。私が知る中では、最大級に巨大なメノウカメオである。※彫刻当時に描いた実物大のデッサンも見せてもらったが、その表現力にも息をのんだ。


※旧約聖書と新約聖書の教えを融合させたモチーフで、タイトルは『The old Adam and the new people』

 父である巨匠ハンス・ディーター・ロート氏の逝去から3年ほどになるが、その志と彫刻技術は息子であるアンドレアス氏に引き継がれていると確信できた。まだ若い彼のこれからの活躍が楽しみである。

余談

余談ですが、ドイツでの移動と言えばアウトバーン。道路状況も運転マナーも非常に良く、快適で高速な移動ができるため、私たちもほぼ毎回レンタカーで移動します。今回の相棒は、SUVのBMWでした。
近年少なくなってきたアウトバーンの速度無制限区間は、日本では味わえない気持ちの良い体験です。

アウトバーンとレンタルしたSUVのBMW

ー訃報に際してー

 宝石彫刻家トム・ムンシュタイナー氏が、心臓発作のため2023年12月28日に逝去しました。
あまりに突然のことで残念でなりません。

 葬儀への参列が叶い、「ムンシュタイナー工房は、トム氏の意志を継いで、フィリップ氏、ベルント氏を中心に今後も前向きに取り組んで行く」という言葉をいただきました。私たちは今後も変わらず、ムンシュタイナーカットの素晴らしさをご紹介していきたいと思っております。

 生前のご厚誼を深く感謝し、お悔やみ申し上げます。


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三沢 一章(みさわ かずあき)

長年に渡りドイツジュエリーを研究。イーダーオーバーシュタインの宝石を日本に紹介すると同時にストーンカメオの研究家でもある。

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