長きにわたり毎年1回以上訪れていたドイツ、イーダー・オーバーシュタイン。2020年以降、海外渡航が困難な状況でしたが、今回ようやく再会が叶いました。2年10か月ぶりの訪問で得た最新情報、2回目となる今回は、現役最高齢のカメオ彫刻家エルヴィン・パウリー氏との再会です。
(番組ガイド誌「GSTV FAN」2022年10月号掲載記事をWEB用に再編集しております)
88歳エルヴィン・パウリー氏の満ち溢れる創作意欲
パウリー氏のカメオを紹介する際、いつも「現役最高齢のカメオ彫刻家」とご紹介している私ですが、正直なところ彼が85歳を超えた頃から、いずれ訪れるであろう彼が彫刻家としての仕事を終える時のことを想像することも増えてきました。
久しぶりの再会となる今回、彼は88歳になっています。やりとりはしているものの会うのはほぼ3年ぶり。「元気でいるだろうか?」と期待と不安が入り混じる中での訪問でした。
アトリエで変わらぬ力強い声で「ようこそ」と出迎えてくれた彼の姿は、その不安をすぐに吹き飛ばしてくれました。
88歳となった今もカメオ彫刻に精力的に取り組んでいるパウリー氏は、創作意欲に満ち溢れていました。
私が聞きたいことを聞く間もなく、今取り組んでいる作品、これから彫刻しようと考えている作品のための美しいラフの説明と話が次から次へと止まりません。そのパワーと想像力は、これまでに増して力強く感じられました。
現在制作中の大型作品「ヴィクトリア」。黒-白-黄の3層からなる美しいメノウ原石に女性の横顔が描かれていました。彼はいつも前向きで、新しいもの、新しことへのチャレンジをとても楽しんでいるのです。
まだ当分の間、私は心配することなく「現役最高齢のカメオ彫刻家」の作品をご紹介できることを確信し、嬉しい気持ちになりました。
パウリー・スタイル
現代カメオを語るうえで、この言葉は外すことができないと言っても過言ではないでしょう。
「パウリー・スタイル」とは、カメオの中に様々な要素をプラスして詰め込んでいくのではなく、取り入れる要素を消去法で限りなくマイナスしていき、カメオをシンプルにするという考え方です。彼は、大半がオーソドックスなモチーフであった1980年代当時、いち早くパウリー・スタイルを考案し、独自のスタイルを確立していきました。
パウリー・スタイルの原点である「マイナスしていく」という発想は、彼がカメオ彫刻を学び始めて間もない頃、彼の師であったリチャード・ハーン氏の言葉によるものであったことが、今回の訪問で彼自身の口から初めて語られました。
ちょっとした会話の中から、何十年通い続けて初めて知ることもあるのです。
パウリー・スタイルの特徴
- 「 限りなく楕円をイメージ」
円はすべてが丸く収まるという意味を込めています。 - 「 顔はほんの少し上向きに」
前に向かって進んでいくというメッセージ、そして希望を象徴しています。 - 「 髪の毛の流れるような美しい曲線」
曲線は永遠を象徴しています。
パウリー工房でのランチ
庭にある自慢のバーベキューハウスで、イーダー・オーバーシュタインの郷土料理をふるまってくれました。
シュピースブラーテンは、19世紀後半にブラジルからメノウや他の宝石と一緒にイーダー・オーバーシュタインに持ち込まれたバーベキューで、この地域の名物料理です。下味を漬け込んでおいた牛肉をゆらゆらと揺れる特製の網を使ってブナの木で焼いていくのです。
青空のもと美味しいお肉をいただきました。
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