ストーンカメオ講座

シェルカメオの聖地 トーレ・デル・グレコ【ストーンカメオ講座】

2020年8月1日

イタリア・ナポリと言えば、そうシェルカメオの聖地トーレ・デル・グレコがすぐそばにあります。今回はトーレ・デル・グレコについてお話いたします。

(番組ガイド誌「GSTV FAN」 2020年8月号掲載記事をWEB用に再編集しております)

地中海を望む街並みトーレ・デル・グレコ

トーレ・デル・グレコの風景

シェルカメオの聖地、トーレ・デル・グレコ(Torre del Greco)はイタリア ナポリ近郊にある人口8万人ほどの地中海に面した美しい街です。このエリアは、ベスビィオ火山や古代都市ポンペイ、カプリ島の青の洞窟やソレントなどイタリア屈指の観光地が多く立地し、日本人観光客の姿も目立ちます。独特な石畳の街並みと、「ボンジョールノー」という陽気な声が聞こえてくると、「ああナポリに来たな」という実感が沸いてくるのです。2020年6月号でご紹介した世界三大カメオの一つ、タツァ・ファルネーゼは、ここナポリにある国立考古学博物館に収蔵されています。明るい太陽、狭い石畳の道、陽気なナポリっ子、「ナポリを見て死ね」の名言もあります。そういう場所でシェルカメオは、匠の彫刻家の手によって作られているのです。

 GSTVでは主に、ストーンカメオをご紹介させていただいておりますが、実は私のカメオ人生においてシェルカメオもとても大きな存在です。これまで、長きにわたりシェルカメオの仕事にも携わらせていただき、その中でシェルカメオの聖地であるトーレ・デル・グレコへも足を運んできました。シェルカメオの聖地であるこの街が地中海を望む港町であるのと対照的に、ストーンカメオの聖地であるドイツ イーダー・オーバーシュタインは山間の緑豊かな街並みです。街並みは大きく違えど、両市とも彫刻技術が発展しカメオ彫刻を育ててきた長い歴史において、素材となる原貝、原石が集積する立地がいかに大きな役割を担っていたかを感じさせます。素晴らしい素材が揃ってこそ、素晴らしい彫刻が生まれるのです。

彫刻家アニエッロ・ペルニーチェ氏を訪ねて

彫刻家ペルニーチェ親子とともに工房にて

ナポリ市街から車で約20分、落ち着いた住宅街にあるペルニーチェ工房に到着すると、いつもの笑顔で私を迎えてくれました。ペルニーチェ氏はとても気さくで、彼がいるとその場が明るくなるような雰囲気を持っています。GSTVでお茶目な姿を見たことがある方も多いかもしれませんが、2011年には国立科学博物館(東京)に作品が展示、紹介されたこともあるほど著名なイタリアを代表するシェルカメオ彫刻家です。


『La Primavera(プリマヴェーラ)』
2016年 アニエッロ・ペルニーチェ作

「花が咲き、小鳥が歌い、自然が生まれ変わるその季節に私にインスピレーションが湧いてきます。そして、この新しい季節の始まりを表現したくなるのです。」とご本人が語っています。有名なボッティチェリの絵画からインスピレーションを受け作られた作品です。


作業台を見せていただくと、色あいや凹凸の形状が多様な材料となるシェルと特徴的な形状をした彫刻刀が並んでいました。

シェルカメオ彫刻用の彫刻刀

材料も彫刻工具もメノウカメオのそれとは大きな違いがあります。それもそのはず、ストーンカメオの彫刻技法が全く異なります。ストーンカメオは回転するダイヤモンド工具にメノウを押し当てて彫刻をしますが、シェルカメオは貝を固定し専用の彫刻刀で彫刻します。ペルニーチェ氏に勧められ、私も彫刻を体験させていただきましたが、指に伝わってくるシェルの硬さが非常に心地よいものでした。

 私がペルニーチェ工房を訪れて一番感銘を受けたことは、息子アントニオさんの存在です。技術継承は簡単ではなく様々な課題である中で、自らこの道を選び父に師事しているのです。父子が肩を並べてシェルカメオ彫刻の仕事をする姿が非常に印象的でした。父の良いところを受け継ぎながら、自分の持ち味を磨き良い作品を生み出してくれることでしょう。

 さて、余談になりますが、ペルニーチェ氏と地元のレストランで美味しい海鮮料理をいただきました。そのレストランのウェイターの手首にチラリ、シェルカメオのブレスレットがさりげなく着けられていました。本当におしゃれですね。もちろん写真を撮らせていただきました。

ウェイターの手首にさりげなく着けられていたシェルカメオのブレスレット

現在の社会情勢を考えると次の来日は少し先になるかもしれませんが、たくさんの新しい作品を持ってまた東京のスタジオにいらしてくれると思います。ご期待ください。

Aniello Pernice(アニエッロ・ペルニーチェ)

  • 1952年 トーレ・デル・グレコ生まれ。
  • 19世紀よりシェルカメオ彫刻の工房を代々営む家系に生まれた。
  • 少年時代からカメオ彫刻に魅せられ、家族の工房で熱心に技術の習得にいそしんだ。
  • その後、巨匠チーロ・スコニャミリオに師事し、彫刻技術のみならず、芸術観についても多大な影響を受けながら研鑽を積んだ。

Antonio Pernice(アントニオ・ペルニーチェ)

  • 1984年 トーレ・デル・グレコ生まれ。
  • アニエッロ氏の次男で、幼少よりカメオ彫刻に興味を持つ。
  • 父の工房で彫刻を学びながら、トーレ・デル・グレコの美術学校を卒業。
  • その後、ナポリ美術大学で彫刻を学び主席で卒業。その後、同大学院を卒業。
  • ギリシャ・ローマ時代を題材としたクラシックなモチーフに加え、動物などのモチーフを得意としている。

※本内容は2016年11月号の内容を改変したものです。
※本文中の「ペルニーチェ氏」とは、父アニエッロ・ペルニーチェ氏を指します。

三沢 一章(みさわ かずあき)

長年に渡りドイツジュエリーを研究。イーダーオーバーシュタインの宝石を日本に紹介すると同時にストーンカメオの研究家でもある。

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