カメオの歴史をひも解くうえで欠かすことのできない世界三大カメオは、ヨーロッパ各地の著名美術館に収蔵されています。今回は「タツァ・ファルネーゼ」(ナポリ国立考古学博物館所蔵)をご紹介いたします。
(番組ガイド誌「GSTV FAN」 2020年6月号掲載記事をWEB用に再編集しております)
ナポリ国立考古学博物館
ローマ、ミラノに続くイタリア第三の都市ナポリは、イタリア南部に位置し、古代ギリシャ人によって建設された歴史深い街です。ナポリ湾の美しい景観や古い建造物は非常に印象的で、ヴェスヴィオ火山やポンペイ遺跡、カプリ島など日本人に親しまれている観光地も数多く点在することから、訪れたことのある読者の方も多いのではないでしょうか。けたたましいクラクションや行き交う人々の声に耳を傾けながら、趣のある古びた石畳を歩いていると、改めてナポリの魅力を実感することができます。
そんなナポリの中心に位置し、ギリシャ美術、古代ローマ美術を収集した世界屈指の博物館が、国立考古学博物館です。ファルネーゼ・コレクションと呼ばれるギリシャ・ローマ時代の数々の彫刻、エジプトの美術品、ポンペイ遺跡から発掘された調度品や壁画なども展示されています。1759年、ナポリ王フェルディナンド4世は、父親から受け継いだ膨大な数の美術品、芸術品、出土品のコレクションを展示するために、16世紀に建てられたストゥディ館を博物館にすることに決めました。国立考古学博物館の歴史はこのようにして始まりましたが、フランス革命やナポレオンの支配などにより、改装は何度も中断されました。その後、1816年に、「ナポリ王立ブルボン家博物館」として完成し、1861年の統一イタリア王国成立に伴って、「ナポリ国立考古学博物館」という名前になり、現在に至っています。この歴史ある素晴らしい博物館に所蔵されているのが、そう世界三大カメオの1つ、タツァ・ファルネーゼです。
世界三大カメオ タツァ・ファルネーゼ
世界三大カメオは、その歴史的価値と大きさ、美しさから 他に類をみないカメオであると言えます。
① タツァ・ファルネーゼ(紀元前175年頃、ナポリ国立考古博物館所蔵)
② ゲマ・アウグステア(紀元9-12年頃、ウィーン美術史美術館所蔵)
③ フランスの大カメオ(紀元24年頃、パリ国立図書館所蔵)
タツァ・ファルネーゼは、古代ギリシャ・ローマ時代、アレキサンダー大帝の望みで、大帝に仕える最高の彫刻師Pyrgoteles(紀元前2~1世紀)により彫刻されたと考えられています。その名は当時の指導者たちによって名づけられたもので、「華麗なる芸術品」を意味しています。世界三大カメオの一つとして非常に貴重なカメオであることは言うまでもありませんが、特筆すべきは、両面から彫刻されている点です。赤色とも褐色とも言い難い柔らかな色調の中に波をうった美しい縞模様があります。皿状に仕上げられた立体的な縞メノウに、両面から彫刻されているのです。
一番薄い部分は、数ミリから数十ミリと推測でき、彫刻が透き通って見えます。裏側から差し込む光の加減によって、色合いとカメオの表情が変幻し、見る者の心を奪うとても美しいカメオです。この両面の彫刻をじっくり見ることができるよう、ここ国立考古学博物館では、360度ガラス張りのショーケースに展示されており、私は、ショーケースの周りをぐるぐると回りながら彫刻の細部を見せていただきました。
表面の彫刻は、豊かなるナイルの大自然を物語っており、左側の隅に横たわっている人物は、ナイルの誇り高き魂を表しています。中央には手に鍬を持ったトリプトレモスが立ち、右側にはナイルの収穫期の象徴でもある水の神がおり、上側の二人の若者は風の神を意味しています。表面には複数の神が彫刻され物語になっているのに対し、裏面はメデューサの顔がダイナミックに彫刻されています。メデューサはギリシャ神話に登場する魔女の3姉妹ゴルゴーンの1人で、蛇の頭をし、その目を見た人は恐怖のあまり石に変わってしまうと言われています。メデューサはカメオのモチーフとして現代でも人気があります。
※本内容は2017年3月号の内容を改変したものです。
こちらの記事もオススメ
-
世界三大カメオをもとめて その1 オーストリア・ウィーン編【ストーンカメオ講座】
カメオの歴史をひも解くうえで欠かすことのできない世界三大カメオは、ヨーロッパ各地の著名美術館に収蔵されています。今回は ...
続きを見る
-
世界三大カメオをもとめて その3 フランス・パリ編【ストーンカメオ講座】
カメオの歴史をひも解くうえで欠かすことのできない世界三大カメオは、ヨーロッパ各地の著名美術館に収蔵されています。今回は ...
続きを見る