ストーンカメオ講座

ストーンカメオの彫刻技法 手彫り その2【ストーンカメオ講座】

2019年12月1日

 ストーンカメオの彫刻技法についてご紹介いたします。今回も引き続き「手彫り」についてです。彫刻の現場を知り尽くした者の一人として、詳細な部分まで責任を持ってお伝えいたします。

(番組ガイド誌「GSTV FAN」 2019年12月号掲載記事をWEB用に再編集しております)

手彫りカメオ3つの特徴と、作品に込められた彫刻家の想い

 前回は手彫りカメオの彫刻手順についてお話しました。古くから続く伝統的な技法によって、手間暇を惜しまず髪の毛一本一本に至るまで緻密に仕上げられる手彫りカメオ。私がこれまでに手彫りカメオ、機械彫りカメオを長年見てきたなかで考える手彫りカメオの特徴は、3点に大別できます。

 1つ目の特徴は、その歴史的価値と大きさ、美しさから 他に類をみないカメオであるであるということです。自分のためだけのモチーフ、形状、色味、大きさのカメオが実現できます。モチーフの選定から、材料となる縞メノウの原石選びに至るまですべて1点のカメオを生み出すために行われます。これまでお客様からのご要望で、お孫さんやペットなどのポートレートカメオをお作りしてきましたが、お客様の満足度は非常に高く、喜びの笑顔を数々見させていただきました。その特別感、希少性はトップクラスと言えるでしょう。すべての工程が手作業で行われるためお時間はいただきますが、ご注文をお受けすることも可能です。

 2つ目の特徴は、機械彫りでは表現しにくい彫刻の細部が繊細に彫刻されていることです。機械彫り技術の発達と熟練工による徹底した品質管理により、機械彫りカメオも非常に美しい彫刻ができるようになりました。ただし、縞メノウの層の厚みや色味はバリエーションが非常に豊かなため、わずかな違いでその表現は変わってくるのです。手彫りカメオはそういった彫刻の細部において、繊細に彫刻することが可能であるため、非常にシャープでかつ滑らかな仕上がりとなるのです。

 3つ目の特徴は、手彫りカメオは彫刻家の想いが詰まっているということです。手彫りカメオの製作は、彫刻家が目で見て、手で原石を支え動かし、耳で彫り進む深さを音で感じながら進みます。まさに五感を研ぎ澄まして行う繊細かつ精巧な作業です。私はこれまで、彫刻家たちのもとを何度となく訪れ、彼らの彫刻作業に目を向け、彼らの声に耳を傾けてきました。そういった経験を通じて私が感じていることは、自らの彫刻技術を高め素晴らしいカメオを生み出したいという彫刻家の真摯な姿勢と、永久に美を伝えたいと願う彫刻家の熱い情熱です。このカメオに対する真摯な姿勢と美に対する情熱こそが、芸術性豊かな素晴らしいカメオを生み出しているのではないでしょうか。だからこそ、手彫りカメオは、見るたびに身も心も豊かにし、幸福な想いを満たすような力があると私は思います。

素晴らしい手彫りカメオ
「アーレスとデメーター」
1937年 アウグスト・ヴィルド作
ドイツ宝石博物館所蔵
パリ万博におけるグランプリ受賞作品
新しいテイストの手彫りカメオ
2019年 シモーネ・ポストラー作
クラシックな3層カメオ
エルヴィン・パウリー作

 余談になりますが、こういうお話をすると「機械彫りカメオはどうなのですか」とお客様によく聞かれます。私の答えはこうです。機械彫りカメオは手彫りカメオなくしては作ることができませんので、機械彫りカメオにも彫刻家の想いは含まれているのです。ただ、手彫りカメオは、その彫刻家の想いがよりストレートに届くカメオと言えるのではないでしょうか。これを機に、より多くの方が手彫りカメオにご興味を持っていただけると、嬉しく思います。

大型カメオ彫刻には芸術的センスだけでなく体力も必要!?

 500点以上の手彫りカメオが展示されているストーンカメオミュージアム(要事前予約)

 山梨県甲府市にあるストーンカメオミュージアム(要事前予約)に展示されている、リチャード・ハーン氏(1917-1999)の大作「タツァ・ファルネーゼ」は作品重量1,250gの器状のカメオです。カメオの中ではかなり大きなサイズですが、その原石の重量はなんと70kgもありました。器状の形にする段階で9kgに、さらに白い層に沿って形状を整え3.5kgになりました。想像してみてください、3.5kgの物を手で支え彫刻機に力を入れて削っていくには相当な体力が求められます。当時、ご本人にお話をお聞きしたところ、原石の重さで手の感覚が無くなるのを防ぐため、1分間彫っては5分間休むという作業を繰り返したそうです。1年の歳月を費やして完成させた作品で一見の価値ありです。

 「タツァ・ファルネーゼ」 1976年 リチャード・ハーン作
100円玉との比較でカメオの大きさがお分かりいただけるでしょうか。
 「春」 1990年 アライ・ドマー作
横長の器状をした珍しいカメオオブジェ

三沢 一章(みさわ かずあき)

長年に渡りドイツジュエリーを研究。イーダーオーバーシュタインの宝石を日本に紹介すると同時にストーンカメオの研究家でもある。

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