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ストーンカメオ講座

ルネサンス (Renaissance) 〜モチーフから見る宝石彫刻[7]〜

 前回は、「ヘレニズム以降からルネサンス以前」という1世紀~13世紀頃の宝石彫刻衰退の時代のモチーフについてお話をしました。長い衰退の時代を経て、宝石彫刻が隆盛を極めるルネサンスへと進んでいきます。今回は、ルネサンス期の宝石彫刻のモチーフについてお話していきます。

(番組ガイド誌「GSTV FAN」2024年8月号掲載記事をWEB用に再編集しております)

文化、芸術、科学の大変革 ルネサンス

 ルネサンス(Renaissance)とは、14世紀から17世紀にかけてイタリアを起点にヨーロッパ全土で起こった文化的転換期のことで、文化、芸術、科学の大変革を指します。「再生」や「復興」を意味し、「文芸復興」とも呼ばれています。古代ギリシャやローマの文化が再評価され、新しい知識や文化が発展しました。

多くの人の頭上に見ることが多い「モナ・リザ」
16世紀 レオナルド・ダ・ヴィンチ作
ルーヴル美術館(2021年筆者撮影)

具体的には、古典的な要素は取り入れながらも、遠近法や解剖学に基づくリアルな表現が追求され、絵画にとどまらず、彫刻、建築、科学、音楽などにおいても大きな進歩が見られました。また、人間の能力や知識が重要視され、個人の才能や創造性を尊重する人文主義の考え方が興隆しました。

「洗礼者聖ヨハネ」
 16世紀 レオナルド・ダ・ヴィンチ作
 ルーヴル美術館(2018年筆者撮影)

 そういった時代にあって、芸術家や学者たちは古代の遺産を研究し、その精神を取り入れながら新しい作品や理論を生み出していったのです。レオナルド・ダ・ヴィンチや、ミケランジェロ、ラファエロなど偉大な芸術家が数多くの作品を残しおり、実際に作品を鑑賞したことがある読者の方も多いのではないでしょうか。私も何度か機会に恵まれ足を運びましたが、彼らの作品を鑑賞するたびに心惹かれ、この時代に想いを馳せます。


「美しき女庭師」
 16世紀 ラファエロ・サンティ作
 ルーヴル美術館(2023年筆者撮影)
荘厳な装飾が施されたアポロンの間の天井
 ルーヴル美術館(2023年筆者撮影)

パトロンの存在

 ルネサンス期において、パトロン(後援者)が果たした役割は非常に大きいものでした。特に、貴族や富豪、教会の高位聖職者がパトロンとして芸術家を支援し、様々な芸術分野の発展を促しました。また、貴重な美術品の収集、保存、展示を行ったため、「コレクション」が形成されたことも大きな特徴です。数百年の時を経て、今日私たちが美術館などで目にすることができる素晴らしい芸術品は、彼らのコレクションが礎になっているものが数多くあります。

「アポロとマルシュアス」
 カーネリアンのインタリオ
 15世紀ロレンツォ・デ・メディチ  コレクション
 写真提供:ゲルハルド・シュミット

 メディチ家はフィレンツェの有力な銀行家、資産家であり、ルネサンス期の最も重要なパトロン家の1つです。15世紀にロレンツォ・デ・メディチによって集められた宝石のカメオとインタリオのコレクションは、非常に価値の高いコレクションとして世界的に知られています。

ルネサンス期のモチーフ

 この時代、カメオは美術品としての価値が高まり、装飾品として貴族や富裕層の間で広く愛好されました。カメオ彫刻家であり宝石彫刻研究の第一人者であるゲルハルド・シュミット氏は、今回の寄稿にあたり次のように話し、写真を提供してくれました。

 「有名な古代カメオのモチーフは、この時代に度々コピーされた。しかし、その品質はルネサンス時代の芸術家によって、決して超えられることはなかった。これは、カメオの素材となる層状の縞メノウを入手することが当時相当に困難であったことが理由として考えられる。16世紀には、2つの異なる石を接着して作られたカメオが数多く残っている」

左上)「皇帝カール5世と息子のスペイン国王フェリペ2世」
 サードニクスのカメオ 1550年レオーネ・レオーニ作
 所蔵・写真提供:The Metropolitan Museum of Art
右上)「アレッサンドロ・デ・メディチ」
 ロッククリスタルのインタリオ 1535年ドメニコ・ポッロ作
 写真提供:ゲルハルド・シュミット
左下)旧約聖書と新約聖書をモチーフにしたカメオ3層の縞メノウ
 パリ国立図書館、ルイ14世コレクション
 写真提供:ゲルハルド・シュミット
右下)「神殿から商人を追い出すキリスト」
 ロッククリスタルのカメオ 16世紀ジョバンニ・ベルナルディ作
 所蔵・写真提供:National Gallery of Art, Washington

 モチーフとしては、ゼウスやアルテミスなどのギリシャ神話の神々や英雄、ユービテルやユノーなどローマ神話の神々などが見られます。また、当時の政治的・社会的な影響力を反映し「皇帝カール5世と息子のスペイン国王フェリペ2世」のように貴族や権力者がモチーフとして多く彫られました。ルネサンス期に再発見された古代ローマの彫刻や壁画をモチーフにしたカメオも残っています。例えば、メディチ家のコレクションにあったアンティノウスやメデューサなどです。また、聖母マリアや聖書の物語など宗教的なモチーフも見ることができます。

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三沢 一章(みさわ かずあき)

長年に渡りドイツジュエリーを研究。イーダーオーバーシュタインの宝石を日本に紹介すると同時にストーンカメオの研究家でもある。

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