後世へと引き継がれる思い
編) お二人は近山先生と同じ宝石の道に進まれたわけですが、それはやはり近山先生の影響があってのことなのでしょうか。
洋)ご縁あってGSTVに出演させていただいておりますが、父はまさか孫まで宝石に関わる仕事をするとは思ってなかったんじゃないかしら。
絵) そうよね……、実は、私は祖父の生前、宝石とは関係のないアパレル業界で働いていました。
祖父が亡くなってから7回忌の時にちょうど30歳目前だった私は、今後の人生について考えていました。そんなときふと子供の頃、遊びに行っていた祖父の家のことを思い出しました。祖父は世間一般的な「おじいちゃん」とは全く違うタイプで、一緒に遊んでくれることはあまりなく、私がいても部屋にこもって学問を続けるような人でした。子供時代の私は好奇心旺盛で、研究室を覗き、そこで遊んだりしていました。そのときに、「カルサイトは字を透かしてみると楽しいよ」、「これはアンモナイト。少し削ってみる?」など、宝石に触れさせてくれました。そんなことを7回忌の時に色々と思い出して「祖父を夢中にさせた宝石とは一体どんなものなのだろう」という興味から、英国宝石学協会の教育を受け始めました。
洋)私自身も、父が宝石学を学ぶ機会を与えてくれたから今があります。私が、英国宝石学協会が認定する資格「FGA」に合格したのは1972年でした。1968年に父が講師となり、宝石学のゼミと東南アジアの視察をかねた洋上ゼミが開催されました。20歳のお祝いとして、そのゼミに参加させてくれました。船上で講義を聞きながら、宝石の学問があることを知りました。「さくら丸」での洋上ゼミの後、大学生でしたが宝石会社の社長さんなど、宝石業者の方々とご一緒に「近山ゼミ」を受講することにしました。当時大学紛争でほとんど授業がなかったので、宝石学という未知の世界に足を踏み入れることができたのだと思います。理論と鑑別機材を使った実技は、大変に厳しいものでした。日本の試験に合格した後、イギリスで権威のある資格があることを父から知らされました。
絵) 現代は選択肢が多い時代です。そんな中で私があえて宝石学に進んだのは、やはり母が資格を持っていたから。祖父のことを考えれば「決して中途半端にできることでない」という母の言葉があり、人生で一番集中し勉強しました。ある日突然、文系が理数系を志すっていうのが近い感じでしょうか。
洋)親子、孫三代でFGAの資格を持っている例は世界でも少ないそうです。絵弥がFGAを取得したことを亡き父に知らせたかったですね。
絵) 今となっては、祖父が生きている時にもっと宝石について聞いておけばよかったなって思ってしまいます。
洋)それは私だって同じよ。資格を取ってからは結婚して子育てに必死だったから。でも41歳のときに父にドイツで開催された国際会議に連れて行ってもらい、父の元で勉強をし直したからこそ、今こうして宝石についての私の持っている細かな知識や情報をテレビでお話しすることができるのかもしれません。
絵) 宝石の資格試験では石の鑑別試験があって、学校に通って試験石の鑑別を学ぶのですが、そのとき母から「あなたは本当に恵まれている。お家の机を開ければ、きちんと分類されている宝石を見ることができるでしょう」と言われました。あまりにも宝石が身近にありすぎて、存在の素晴らしさを意識していなかったのです。古くから宝石に携わっている人からすると、やはり恵まれているって感じるそうですが、当然のことだと思います。