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ストーンカメオ講座

ヘレニズム以降からルネッサンス以前 〜モチーフから見る宝石彫刻[6]〜

2024年5月30日

 昨年夏のドイツ訪問から、「写真から見るイーダー・オーバーシュタイン訪問記」をアルバム形式でご紹介しました。今回は、2023年2月からスタートした連載「モチーフから見る宝石彫刻」に戻り、2023年10月号に続くお話をしていきます。

(番組ガイド誌「GSTV FAN」2024年6月号掲載記事をWEB用に再編集しております)

宝石彫刻衰退の時代(1世紀~13世紀頃)

 これまでのお話を少し振り返りましょう。ギリシャ世界はかつてないほどに拡大し、活発な交易・経済活動によって一般市民の生活も豊かになっていったヘレニズム時代(紀元前323年~紀元前32年)、宝石彫刻のモチーフは宗教的なもの、つまり神々や女神、神話でした。また、ヘレニズム時代から起源1世紀頃にかけて、世界三大カメオに代表されるような王の宝物として作られた非常に大きく、豪華で美しいカメオが生まれた時代でもあり、宝石彫刻が大きく花開いた時代でした。

宝石彫刻ではないものの、同時代である4-6世紀に作られた銀製の皿。主に神話モチーフ、儀式などで使用された。(フランス国立旧図書館、2023年筆者撮影)


 宝石彫刻が隆盛を極めたこの時代の後、つまり4世紀以降は西洋において宝石彫刻芸術は衰退していきます。カメオ彫刻家であり宝石彫刻研究の第一人者であるゲルハルド・シュミット氏は、「3世紀頃までは、それなりの品質のカメオやインタリオが作られていたが、その後の彫刻作品の質は極度に低下していった」と彫刻技術や品質の面でも言及しています。

ルーブル美術館(2023年筆者撮影)

4世紀以降、西洋において宝石彫刻は衰退の道を歩む中、東洋においてはビザンティン美術、イスラムの美術として生き続けました。また、カール大帝(768−814年)の宮廷で、宝石彫刻芸術が突然の興隆期を迎えるのですが、10世紀には再び消えてしまいます。それゆえ、中世のものとして残る作品はほぼありません。この寄稿では、写真や図をできるだけ多く紹介することを心がけていますが、今回ばかりはご紹介できる写真が少ないことをご了承ください。(代わりに私の大好きなパリ・ルーブル美術館の外観写真を加えました)


 一方で、紀元前1世紀から4世紀頃にかけて見られたインタリオで特筆すべきは、アブラクサス宝石彫刻、グノーシス宝石彫刻、もしくは魔法の宝石彫刻です。これらは、ペンダント、リング、もしくは布や革で作られた小さな袋に入れて身に付けられていた小さなインタリオの名前です。危険や病気から身を守るお守りとして使われていました。アブラクサスは、雄鶏の頭を持ち、鎧を着て手には力と勝利の象徴として鞭と盾を持っています。足の代わりである2匹の蛇が活力と再生を象徴しています。


 ほとんどが非常にシンプルで、大まかに彫刻されたものですが、鑑賞者やコレクターは今でも、これらの小さな芸術作品が繰り広げる不思議な魔力に魅了されています。この特殊なジャンルは、2世紀から3世紀にピークを迎えました。素材としては、メノウ、ジャスパー、カーネリアンなど幅広い宝石が使用されていました。

宝石研磨・クリスタル研磨のギルド

 カール大帝(768−814年)の宮廷での宝石彫刻の一時的な隆盛から約300年後、後のシチリア国王であり、神聖ローマ皇帝である皇帝フリードリッヒ2世(1194−1250)の宮廷を中心に、パリで宝石彫刻芸術が再び目を覚まします。パリでは、1259年以降に宝石研磨とクリスタル研磨のギルド(水晶・天然石職業組合)が存在したという記録があり、リング用の宝石彫刻や器が作られていたことが分かっています。

高品質なクリスタルに部分的にカメオ彫りとインタリオ彫りが施された器は、当時非常に高価なものでした。これらは大規模な祝賀会や夕食会でワインや水を入れて使用されましたが、最終的には、“Kunstkammer”(クンストカンマー:宝物館や美術収集室の意)向けのコレクターアイテムでした。

上質なクリスタルから彫刻された水差し。12世紀イタリア。ルーブル美術館所蔵(2018年、筆者撮影)

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三沢 一章(みさわ かずあき)

長年に渡りドイツジュエリーを研究。イーダーオーバーシュタインの宝石を日本に紹介すると同時にストーンカメオの研究家でもある。

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