(番組ガイド誌「GSTV FAN」2023年5月号の掲載記事をWEB用に再編集しております)
様々な環境と地質作用により形成される「宝石」。そのプロセスは主に5つで、前号に引き続き「変成岩」起源の宝石・広域変成岩について、近山先生が世界中から収集したサンプルとともにご紹介します。
Type4.変成岩起源の宝石/広域変成岩Ⅱ「インドプレート」
前号ではゴンドワナ大陸が形成される際にできた変成岩とその宝石の種類などをご紹介しました。その後(約1億年前)、ゴンドワナ大陸はバラバラになり、インド大陸が長い時間をかけて北上し、ユーラシア大陸と衝突します。そして、約5千万年の間に陸地が押し寄せられ、ヒマラヤ山脈が徐々に形成されました。そこから衝突境界部である中央アジアや東南アジア地域に再び多くの変成帯が形成され、第2回目の宝石生成期がもたらされたのです。
代表的な原産地とその宝石をご紹介します。
ゴンドワナ大陸期、インド南部ではすでにルビーが形成されていましたが、北部は大陸が衝突する前に存在していた海域が大陸同士の衝突によって挟まれ、陸上へと隆起。海起源の炭酸塩変成帯が形成され、その中から世界最高級品質のブルーサファイアがインド北部カシミール地域のパダール(Soomjam-Padar)山岳から生まれました。それ以外にも多くのムーンストーンとサンストーンも産出されています。
1:1960年代に取れたカシミール産サファイアの原石
2:インドの中部から北部は各色のムーンストーン原産地として最も有名で、特にTamil Nadu地域がよく知られています
3:インド産ムーンストーンの原産地と同地域(Tamil Nadu)から産出されているサンストーン
4:活発な火山活動により流紋岩が噴出したときに急冷でできた火山ガラス(フラワーのような模様あり)/インド産
チベット地域の中圧広域変成岩からはガーネット、十字石、藍晶石、珪線石、カリ長石(ムーンストーン)、アンデシン・サンストーンなどが産出され、ネパールの低程度変成岩―大理石からはルビーが形成されています。インド大陸がユーラシア大陸と衝突して北上し、やがて隣接する中央アジアにも及びました。聳え立つ崑崙山脈は低温中圧変成作用を受け、世界最高品質の軟玉(ネフライト、アクチノライト)が形成されました。
5:石英に多くの石綿の繊維組織が平行に層状となしてできたタイガーアイ/インド産
6:チベット南部Shigazse地域Bainangから産出された天然アンデシン・サンストーン
7:ヒマラヤ山脈に位置するネパール北部のGanesh Himal地域の大理石から産出されたルビー
8:8000年にも及ぶ玉の文化、その中で最も知られているウイグル・崑崙山脈から産出された最高品質を持つネフライトー白玉
また、アフガニスタン、パキスタン、タジキスタンにも同様に構造プレートからの衝突によって、熱と圧力が与えられ、宝石を形成する環境ができました。変成岩からは歴史的にも有名なラピスラズリ、サーペンティン(蛇紋石)、ルビー、サファイア、スピネル、エメラルド、ヒデナイト、ガーネットができ、火山活動によって立ち上がるペグマタイトからは最高宝石品質のクンツァイト、モルガナイト、トルマリン、ベリル、アクアマリンなどが形成されています。
9:人類に認知された最古の宝石。顔料としても珍重されてきたアフガニスタンのバダフシャーン産ラピスラズリ
10:アフガニスタンのJegdalek地域の大理石から産出されるルビー
11:パキスタン北部のGilgit-Baltistan・Hunza谷の大理石から産出されているルビーとサファイア
東南アジアは、インドプレートの海洋沈み込み帯によりアジアへ大陸衝突した大陸地塊で構成されています。その海洋沈み込み帯では、元々存在した岩石がプレートの移動により地下深部(100~150㎞)に沈み込み、高温高圧下に晒され、そこでも広域変成岩(縞模様を持つ結晶片岩や片麻岩、角閃岩、グラニュライト、エクロジャイトなど)が形成されます。高変成度(高圧型)の地域からはガーネット、ヒスイ、カイヤナイト、ローソン石、輝石が形成され、低変成度(低圧型)の地域からはブドウ石、アンダリュサイト、アイオライトなどが晶出されています。
代表的な東南アジアの宝石原産地として挙げられるのは、ミャンマー、タイ、ベトナム、カンボジアなどです。ミャンマーでは世界最高品質であるヒスイ、ルビー、サファイア、アパタイト、ジルコン、ムーンストーンなどが形成されています。ベトナム北部では大理石起源のルビー、スピネル、コバルトスピネルが有名。タイとカンボジアでは、玄武岩起源の大量のブルーサファイアとルビーが形成されています。
変成岩起源の宝石は日本にもあり、有名な糸魚川のヒスイが沈み込み帯で形成された宝石です。それ以外にもブドウ石、沸石が産出されています。
12:ミャンマー北部のカチン州から産出されている最高品質のヒスイ
13:500年も掘り続けた世界的著名なルビー産出国・ミャンマーのモゴック地域。大理石変成帯が分布し、鮮やかな高品質のルビーが産出されています
14:タイの最も南部に位置するトラート地域は玄武岩起源のルビーの名産地
15:タイのBo phloi地域から産出された玄武岩起源のブルーサファイア
16:ミャンマー産ルビーに匹敵するベトナム北部ルクエン地域の大理石からは多数のルビーが採掘されています
17:沈み込み帯で形成された糸魚川のヒスイ。世界的に最も古い硬玉(ヒスイ)として日本の国石となっています
※記事中の鉱物などの写真は、近山晶コレクションより選別され、撮影されたものです。
阿依 アヒマディ(あい あひまでぃ)
Tokyo Gem Science社の代表兼GSTV宝石学研究所の所長。
理学博士・FGA。国際鉱物学会(IMA)宝石素材委員会日本代表。国際宝石学会理事。京都大学理学博士号取得後、全国宝石学協会 研究主幹を務め、2012年にGIA Tokyoラボを立ち上げる。現在はTokyo Gem Science社の代表およびGSTV宝石学研究所の所長として、宝石における研究、教育セミナー、宝石鑑別などの技術サポートを行っている。宝石の研究、鑑別に関して日本を代表する宝石学者。
GSTVジェムミュージアム
完成した「GSTVジェムミュージアム」。日本における宝石研究の大家、近山晶先生が収集した貴重な試料を展示し、日本の宝石の歴史を後世に伝えていきます。
「GSTVジェムミュージアム」はアヒマディ博士とそのスタッフの協力により貴重な標本が整理され、展示されてます。
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