(番組ガイド誌「GSTV FAN」2023年7月号の掲載記事をWEB用に再編集しております)
様々な環境と地質作用により形成される「宝石」。そのプロセスは主に5つで、前号までに火成岩、ペグマタイト、熱水気体、変成岩起源の宝石について解説してきました。今回はプロセス5つめとして「堆積岩」起源の宝石を、近山先生が世界中から収集したサンプルとともにご紹介します。
Type5.堆積岩起源の宝石
地表に露出した岩石が物理的、化学的な風化作用を受けて破壊され、 河川の運搬によって下流に堆積し生じた岩石・堆積岩。堆積岩には既存の岩石が物理的・化学的な風化・侵食作用によってできた砂礫、砂、泥、火山砕屑物などが堆積してできたものと、海底や湖底に堆積した生物遺骸が続成作用によってできた生物起源堆積岩があります。
前者の代表的岩石には、礫岩、砂岩、泥岩、頁岩、火山角礫岩、凝灰岩、蒸発岩(岩塩、石膏)などが挙げられます。後者は生物由来の石灰岩、ドロマイト、チャート、珪藻土、石炭などになります。
さて、地下の熱水は上昇過程で豊富なミネラル成分を取り込むようになります。その熱水と熱水から発生した蒸気が堆積岩の割れ目や隙間に貫入し、冷えて結晶化する場合があります。特によく知られているのは宝石・オパール。
シリカゲル(SiO2)の成分が堆積岩の空洞や割れ目の亀裂に沈殿し、微粒のシリカ球の配列により美しいオパールが形成されます。オーストラリア産ブラックオパール、日本、アルゼンチン、メキシコ産の蛍光性が美しいハイアライトオパールは温泉の沈殿起源となっています。また、熱水がケイ素豊富な火山灰や溶岩中に浸入し形成されたメキシコ産ファイアオパール、エチオピアオパールなどもよく知られています。
1:温泉起源より形成されたオーストラリアのライトニングリッジ産のブラック・オパール
2:酸化鉄をよく含んだ、砂岩中の割れ目に形成されたボルダーオパール。オーストラリアのクイーンズランド産
3:火山灰中に形成されたメキシコ産ファイアオパール
身近でよく見かけるトルコ石、マラカイト、ロードクロサイトなども二次鉱物で、すでに形成された鉱物が風化して酸化される過程で、酸性の水溶液が浸透する作用によって、火山岩中の穴や割れ目に埋めて100~190℃の高い温度で形成されています。
4:酸性の熱水が黄銅鉱、長石、アパタイトなどを溶解。多くのミネラル成分を濃縮した溶液が火山岩や乾燥した地層の穴や割れ目に入り、結晶化したイラン産のトルコ石
5:孔雀の羽模様に類似した孔雀石は、地下水の影響で銅鉱石が風化され、銅化合物が濃集して形成されます(南アフリカ産)
6:方解石に類似した菱マンガン鉱(ロードクロサイト)は熱水が銀金鉱山周辺に浸入し、空洞などで沈殿しながら塊の結晶として形成されます
メノウは火成岩だけでなく、堆積岩の空洞中に同心円状や層状に沈殿してできた宝石です。成分によって、縞メノウ、樹枝メノウ、モスアゲート、針入りメノウ、水入りメノウ、オニキス、サンダーエッグ(雷の卵)、雨花石などがあり、アメリカ、ドイツ、メキシコ、アルゼンチン、ポーランド、チェコ、そして日本の北海道、群馬県、石川県などからカラフルなものがよく産出されます。
7:鉄やマンガンの酸化物が取り込まれた樹枝状の模様を示すメノウ
8:形成される時にマグマの熱水が取り残されたメノウは水入りメノウと呼ばれています。インドネシア産の美しい大きな彫刻品
9:雷の卵と呼ばれる流紋岩の堆積層の空洞にできた卵のようなメノウの塊。ドイツのイーダー・オーバーシュタイン産
10:メキシコから産出された無色透明なカルサイト結晶の集合体
11:真珠層をおもわせる層状の黄色アラゴナイト(メキシコ産)。彫刻品によく使われています
12:石灰岩洞窟で熱水滴により結晶化した方解石の結晶が垂れ下がったり、集合して花状になったりして鍾乳石が形成されます(ブラジル産)
生物起源の石灰岩は、炭酸カルシウムの結晶構造を持ち、地上または地下の浅いところで方解石が結晶化され、深いところではアラゴナイトの結晶が形成されます。また、水と炭酸カルシウムの化学沈殿により、つらら状に垂れさがる鍾乳石やふわふわとした放射状のオケナイトが形成されます。二酸化ケイ素(石英)でできたチャートの堆積岩に酸化鉄が多く含まれるとジャスパーのような赤褐色のものになったり、緑色の粘土鉱物が含まれると緑色のチャートになったりもします。
13:火山性の空洞の中でガラス状の放射状に伸びる綿のボールのようなクラスターが形成されるオケナイト(インド産)
14:酸化鉄鉱物(赤鉄鉱)によって赤く着色した潜晶質石英が堆積してできたチャート。赤色のジャスパーのように見えます
15:地殻変動により海底が隆起し、陸上に海水が閉じ込められて塩湖となり、水分が蒸発するにつれ、結晶化した岩塩
植物が化石化し、地層に埋められた樹木が長年にわたる圧力のもと、細胞組織の中に珪素や酸素、水素の化合物が入り、シリカという物質に変化することで木のような保存状態の良い珪化木が形成されます。アメリカやカナダ、ウイグルがその名産地として挙げられます。
生物起源の宝石はアンモライトや貝(イカのオパールや山サンゴなど)、数億年前の貝殻、サンゴなどの死骸が堆積物として地層に堆積したものが挙げられます。主成分であるアラゴナイトが方解石、石英、黄鉄鉱とその他の鉱物に置き換えられ、構造が変化して化石化したものです。
遊色効果を持つアンモライトは主にアメリカとカナダで産出されています。オパール化した貝殻は、堆積層で貝殻の成分がいったん溶けて空洞となり、オパールの成分を含んだ地下水位がしみ込み、貝の形を持ったままオパールに形成されています。オーストラリアのクーパーペディとメキシコが主要な名産地です。
GSTVの宝石博物館・近山晶コレクションには、これまでに解説してきた5つの環境から形成された美しい鉱物や宝石結晶、カット石が豊富に揃っています。地球から生まれた奇跡的な宝を学べる、最適な施設であると思っております。
16:樹木が長年地層に埋められ、細胞組織が二酸化ケイ素に変化してできた珪化木。宝飾彫刻品に使われます
17:1億年前に生息した渦巻き状のアンモナイトの化石(マダガスカル産)。断面には多くのメノウや石英や粘土鉱物が含まれています
18:美しい干渉色を示すアンモライト(カナダ産)
※記事中の鉱物などの写真は、近山晶コレクションより選別され、撮影されたものです。
阿依 アヒマディ(あい あひまでぃ)
Tokyo Gem Science社の代表兼GSTV宝石学研究所の所長。
理学博士・FGA。国際鉱物学会(IMA)宝石素材委員会日本代表。国際宝石学会理事。京都大学理学博士号取得後、全国宝石学協会 研究主幹を務め、2012年にGIA Tokyoラボを立ち上げる。現在はTokyo Gem Science社の代表およびGSTV宝石学研究所の所長として、宝石における研究、教育セミナー、宝石鑑別などの技術サポートを行っている。宝石の研究、鑑別に関して日本を代表する宝石学者。
GSTVジェムミュージアム
完成した「GSTVジェムミュージアム」。日本における宝石研究の大家、近山晶先生が収集した貴重な試料を展示し、日本の宝石の歴史を後世に伝えていきます。
「GSTVジェムミュージアム」はアヒマディ博士とそのスタッフの協力により貴重な標本が整理され、展示されてます。
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