(番組ガイド誌「GSTV FAN」2023年3月号の掲載記事をWEB用に再編集しております)
様々な環境と地質作用により形成される「宝石」。その形成プロセスは主に5つで、前号に引き続き、「熱水気体」起源の宝石について近山先生が世界中から収集したサンプルとともにご紹介します。
Type3.熱水気体起源の宝石②
前号でお伝えした通り、熱水気体鉱床の鉱山を多数持つことで有名なのがコロンビア、その宝石がエメラルドです。この宝石からは熱水鉱床を知るための重要な指標となる三相(気体、液体、固体)インクルージョンがみられます。ちなみに「赤いエメラルド」と呼ばれるアメリカ・ユタ州のレッドベリルも高圧の気体相から結晶化した宝石と考えられています。
そのほか熱水気体起源の宝石として、世界各地の晶洞から多くのアメシスト、シトリン、水晶、カルサイト、石膏などが採掘されています。その地下岩石の空洞には豊富な成分と安定した温度、湿度、時間といった条件が揃っているため、大きな結晶ができやすいのです。
マグマに伴った熱水が周囲にある岩石の空洞に入り込み、水分が蒸発しミネラル成分が結晶化して岩石の表面に沈殿します。そこから重い金属を含んだ黒色縞状の濃集部ができ、ゲル状珪酸から結晶化した白色緻密な石英が析出。そして重量の作用で垂れて曲がりくねって縞状組織のメノウができ、熱水中の珪酸分が減少すると珪酸イオンの希薄溶液から、透明感の高いガラス光沢の水晶群、紫色のアメシスト群、黄色のシトリン群が形成されます。
「近山晶コレクションより」
1:上昇してマグマのガスの濃集により形成されたレッドベリル。アメリカ・ユタ州。
2:ブラジルのリオ・グランデ・ド・スール州に分布する火山岩内に大きな球晶(ジオード)が多く産出され、世界に高品質のアメシストを提供しています。
ブラジルのリオ・グランデ・ド・スール州にある巨大なアメシストの群晶は特に有名です。この州の晶洞から発見された史上最大のアメシスト結晶群はなんと10メートルの高さを有し、重さは8トンもありました。余談ですが、世界最大級の14トンに及ぶ水晶群はナミビアのOtjua鉱山の地下45メートルにある晶洞から採掘され、掘り出すために3年間もかかったそうです。
メキシコのナイカ晶洞やスペインのプルピ晶洞から11メートルを超える世界最大級の石膏の結晶が形成されていることも注目すべきことです。
「近山晶コレクションより」
3:ブラジルのリオ・グランデ州から最高品質のフラワー系シトリンが形成されています。90%のシトリンは加熱されたアメシストですが、同産地から非加熱のシトリンも採掘されています。
4:熱水から重金属が岩石の表面に沈殿し濃集します。それから白色のゲル状珪酸が結晶化しはじめ、重力によって縞状の潜晶質のアゲートが成長します。さらに溶液の飽和度が下がると、透明度の高い水晶が競争しながら単結晶として様々な方向に成長し大きくなります。
5:ナミビアのOtjua地域の晶洞から産出した世界最大の水晶群。
6:単結晶の水晶は火成岩、変成岩、堆積岩などに含まれ、熱水起源の水晶は最も大きく成長します。同じ基盤から多数の結晶が発達しクラスターを形成しやすいのが特徴です。
7:「雷の卵」と呼ばれる球晶。火山溶岩の冷却につれ、閉じ込められたガスが膨張し泡を形成し、メノウや水晶、長石などの鉱物は周囲から成長します。
8:スペインの世界最大級のプルピ晶洞から石膏の巨晶が形成されています。近山晶コレクションには10センチメートルに及ぶ石膏の結晶があります。
9:メキシコ・チワワ州にあるナイカ鉱山地下300メートルの晶洞では巨大な透石膏が形成され、カルサイトの結晶もしばしば見つかります。
10:熱水鉱床は高温の熱水が岩石、石英脈に通過する際に沈殿して貴金属が形成されます。ブラジル・バイーア州のGentio do Ouro鉱山産金の塊。
日本でも、かつて熱水起源の三大金山(高玉金山、鯛生鉱山、鴻之舞鉱山)があり、熱水から沈殿した貴金属の金以外にも、水晶とアメシストの群晶が採取されていました。加えて浅熱水鉱床起源である秋田県の阿仁鉱山、鹿児島県の串木野鉱山、福島県の田畑(裏半田)鉱山では昭和頃から今日に至るまで、淡く美しい紫色のアメシスト群晶が採掘されています。
「近山晶コレクションより」
11:日本国内の高温熱水鉱床から亜鉛が産出されています。方鉛鉱から亜鉛が主として、銀も分離されます。
12:日本産アメシストの群晶の色は比較的淡く、藤色や「ローズ・ド・フランス」とも呼ばれています。秋田県阿仁鉱山産。
13:福島県田畑鉱山産アメシストの群晶。
阿依 アヒマディ(あい あひまでぃ)
Tokyo Gem Science社の代表兼GSTV宝石学研究所の所長。
理学博士・FGA。国際鉱物学会(IMA)宝石素材委員会日本代表。国際宝石学会理事。京都大学理学博士号取得後、全国宝石学協会 研究主幹を務め、2012年にGIA Tokyoラボを立ち上げる。現在はTokyo Gem Science社の代表およびGSTV宝石学研究所の所長として、宝石における研究、教育セミナー、宝石鑑別などの技術サポートを行っている。宝石の研究、鑑別に関して日本を代表する宝石学者。
GSTVジェムミュージアム
完成した「GSTVジェムミュージアム」。日本における宝石研究の大家、近山晶先生が収集した貴重な試料を展示し、日本の宝石の歴史を後世に伝えていきます。
「GSTVジェムミュージアム」はアヒマディ博士とそのスタッフの協力により貴重な標本が整理され、展示されてます。
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