(番組ガイド誌「GSTV FAN」2023年4月号の掲載記事をWEB用に再編集しております)
様々な環境と地質作用により形成される「宝石」。そのプロセスは主に5つで、前号までにご紹介した火成岩、ペグマタイト、熱水気体起源の宝石に引き続き、今回は「変成岩」起源の宝石を近山先生が世界中から収集したサンプルとともにご紹介します。
変成岩は、すでに形成された岩石が、マグマの熱により変成を受けてできる別の鉱物と組み合わさった岩石。特に地殻の浅いところに起きる現象です。上昇してきたマグマと周囲の岩石(堆積岩)が接触した際に、温度が高く圧力が比較的低い条件下で既存した鉱物が一度溶解し、冷却につれて新たに安定した鉱物や宝石が形成されていきます。巨晶を持つ火成岩のペグマタイトと比べ、次の宝石への生成起源が多いのが変成岩となります。ルビー、サファイア、スピネル、エメラルド、ガーネット、タンザナイト、スフェーン、アパタイト、ラピスラズリなど、皆様ご存じの有名石はじめ、ターフェアイト、モンテブラサイト、ジョハチドーライトなどの希少宝石も変成岩から誕生します。
Type4.変成岩起源の宝石/広域変成岩Ⅰ「ゴンドワナ大陸」
地球の火山活動や構造運動によって、火成岩と堆積岩が接触し、周囲の温度や圧力が変化します。それと共に、新しい条件下では安定した新しい鉱物の組み合わせに変化していきます。このような地殻内部で岩石の性質が変化していく作用が変成作用と呼ばれます。この変成作用を通じて、固体の状態で原子の移動や再結合が起きると考えられています。
1a、1b:ゴンドワナ大陸衝突の高温高圧作用によって形成された、6億5千万年前にマダガスカルのGogogogo地域から産出された六角平板柱状の結晶形を持つルビー原石。同変成帯ではそれ以外にサファイアや希少宝石・デュモルチェライトも多数産出されています。
2:マダガスカルに隣接していたインドプレートにも多くの宝石が形成されました。多数の完璧な結晶形を示す結晶片岩に含まれるルビーの結晶。インドのKaru地域のKolar鉱山産。
3:広域変成岩の代表的な黒雲母片岩に含まれるパイロープ/アルマンディン・ガーネットの結晶群。
変成作用は大きく①広域変成作用、②接触変成作用、③動力変成作用に大別されます。それぞれの変成作用によって宝石の形成のされ方が異なります。
①広域変成作用では、地球の構造運動や造山運動による変成作用によって、広い地域(数km〜数100km)に渡って広域変成岩が形成されます。このような場所でプレートテクトニクス(大陸移動)が引き起こされると考えられています。例えば、大陸と大陸の衝突境界部、海洋プレートの沈み込み帯、火山弧深部などが挙げられます。
4a:世界第二のエメラルド産出地であるザンビアのカフブ鉱山から採掘された高品質のエメラルドと雲母片岩に含まれるエメラルド結晶。4億年以上前に形成されたと推定されています。
4b:5億8千万前に形成されたタンザナイト。地球テクトニクスによって大陸が集合、衝突し合ってタンザニアのManrara地域が高温にさらされ、すでに形成されたグロッシュラーガーネットが熱の影響で変成し、タンザナイトは誕生しました。
4c:タンザニアの名物、ルビー・イン・ゾイサイト。
5a:ケニアのTaita Hills地域から産出された高圧低温型変成岩から形成されたアクチノライト-角閃石。
5b:1960年代にケニアとタンザニアを跨るツァボ国立公園で緑色のグロッシュラーガーネットが発見されました。
6:ゴンドワナ大陸に属し、インドとスリランカはマダガスカルと接触して同様の広域変成作用を受け、スリランカでも同年代(6-4億年)で多くの宝石が形成されました。サファイア、ジルコン、アイオライト、クリソベリルなどがその変成岩起源の代表的な宝石です。
7a、7b:世界第三のエメラルド鉱山はブラジルのItabira地域に分布し、片麻岩起源のエメラルドが多く産出されています。高温下形成された宝石品質を持つブルーカイヤナイトもブラジルのミナスジェライス州のMorro Rendondoから産出されています。
8:今はアフリカから遠く離れているオーストラリアも元々はゴンドワナ大陸にあり、そこでは片麻岩から多くのルビーが産出されています。ただし品質は低く、小粒のルビー結晶が多数です。
地球上での第一回目の宝石誕生地は約6億年前、いくつかの大陸(アフリカ、南アメリカ、アラビア、インド、マダガスカル、南極大陸、オーストラリア)が衝突して超大陸であるゴンドワナ大陸が形成される際に、衝突によって圧縮され、東アフリカ一帯に平行な広い変成帯が形成されました。変成作用の過程で片状構造を持つ高い温度でできた高度な変成岩と低温度でできた変成岩が形成されます。
特に千枚岩、結晶片岩、片麻岩、グラニュライト(白粒岩)、エクロジャイト(榴輝岩)から様々な宝石が形成されていました。例えば、エチオピア、マダガスカル、スリランカ、インド、タンザニア、ケニア、モザンビーク、南アフリカなどからの、ルビー、サファイア、エメラルド、ガーネット類(アルマンディンガーネット、グロッシュラーガーネット、スペサルティンガーネット)、タンザナイト、クリソベリル類(アレキサンドライト、クリソベリル)、スピネル、ジルコン、コーネルピン、アパタイト、カイヤナイトなどが挙げられます。
近山晶コレクションには、これらの産地から様々な宝石原石も蒐集されています。特に母岩に含まれた宝石には完全な結晶形を持つ非常に稀少なものもあり、大変魅力的です。
次号ではヒマラヤに向かうインドプレートで何が起き、どんな宝石が形成したのかをご紹介します。
9a、9b:近山先生が長年集められた多くの宝石の原石や鉱物標本。このように標本棚に入っていて、私たちの研究や教育に非常に役に立つ宝物として残してくださいました。
阿依 アヒマディ(あい あひまでぃ)
Tokyo Gem Science社の代表兼GSTV宝石学研究所の所長。
理学博士・FGA。国際鉱物学会(IMA)宝石素材委員会日本代表。国際宝石学会理事。京都大学理学博士号取得後、全国宝石学協会 研究主幹を務め、2012年にGIA Tokyoラボを立ち上げる。現在はTokyo Gem Science社の代表およびGSTV宝石学研究所の所長として、宝石における研究、教育セミナー、宝石鑑別などの技術サポートを行っている。宝石の研究、鑑別に関して日本を代表する宝石学者。
GSTVジェムミュージアム
完成した「GSTVジェムミュージアム」。日本における宝石研究の大家、近山晶先生が収集した貴重な試料を展示し、日本の宝石の歴史を後世に伝えていきます。
「GSTVジェムミュージアム」はアヒマディ博士とそのスタッフの協力により貴重な標本が整理され、展示されてます。
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