「麗しの宝石ショッピング」「ジュエリーライフ11」でお馴染みの人気コメンテーター「目黒佐枝」が映画の中のジュエリーを考察。今回は、映画「山猫」のジュエリーをテーマにご紹介します。
(番組ガイド誌「GSTV FAN」2021年3月号掲載記事をWEB用に再編集しております)
映画「山猫」
1963年カンヌ国際映画祭グランプリに輝いたイタリア映画「山猫」は、イタリアがまだ小国に分かれていた1860年代後半のシチリア王国が舞台。近代国家に変革する時代に生きるシチリア貴族の斜陽を描いた、もの悲しさを感じるストーリーですが、注目は、今のイタリア美学に通じる豪華絢爛な衣装とジュエリーです。
シチリアは、歴史的に他国に支配された時代があり、異文化を取り入れ熟成したようなセンスが入ることも特徴と言えます。映画の冒頭で見るそよ風と太陽から感じる自由なイメージと真逆の、窮屈さを感じる生き方と装いが興味をそそりますね。
映画:山猫(Il gattopardo) 公開:1964年1月 監督:ルキーノ・ヴィスコンティ
出演:バート・ランカスター/アラン・ドロン/クラウディア・カルディナーレ
衣装とジュエリー
今回取り上げるのは、エナメル、色石、カメオをミックスしたジュエリーと、レース、リボン、刺繍、花のヘアピースと共に装う、過剰なほど装飾を盛り込んだ重々しい荘厳な身のこなしです。貴婦人も若い令嬢も、珊瑚やシェルに彫ったカメオを身につけています。そして、宝石とエナメルを共に仕立てたジュエリーとレースを合わせて見せることが多く見られます。
ジュエリーに対する考え方を掘り下げてみましょう。中世の頃からは特に礼拝や信仰に関するジュエリーが大事にされ、相続品の財産目録に載せるほど貴重品でした。人々は、カメオの彫刻には霊力が宿ると考えていました。アンセーニュ※がジュエリーを身に着ける軸として位置づけられます。一流の宝石細工師は、物語や神話や詞の意味を取り入れた彫刻、エナメル細工と宝石の美しい色彩のコントラストで美の基準を保つことを使命としていました。つまり、細工の中に知性が要求されたのですね。
※アンセーニュ
巡礼を済ませてきた聖地の記念として身につける標章のこと。この俗界で忠誠を表わすために身につけるブローチ類に相当。
これを裏付ける印象的な言葉があります。伝統を捨て移りゆく時代の変化の中で1851年頃に宝石商がつぶやくのは、「・・・宝石の受け座を作って、そこにセッティングするだけでいい、今は私に求められているのはただそれだけ・・・」という憂いた言葉。
今の私たちは、装飾を削ぎ落として、シンプルさを追求したジュエリーが素敵に感じますが、特に意味がない宝石の配置が求められる時代を嘆き悲しんでいたのですね。流行は繰り返されると言いますが、シンプルさに飽きたら、装飾を盛っていく時代がいつか来るのでしょうか。そんな考えでジュエリー談義をするのも楽しみのひとつですね。