(番組ガイド誌「GSTV FAN」2023年11月号の掲載記事をWEB用に再編集しております)
昨年5月よりGSTV本社にて「近山晶コレクション」がGSTVファンの皆様に向けて公開されています。“宝石学の父”と呼ばれる近山晶氏が世界中から収集した中でも特に稀少価値の高い原石・宝石を展示したこのジェムミュージアム。天王洲ショールームへのご来店やGEM AUCTIONのジュエリー展示、ファクトリーセールの際など、たくさんのお客様に足を運んで貴重な体験を楽しんでいただいております。
本連載ではGSTV宝石学研究所の所長そしてTokyo Gem Science社の代表でもある阿依アヒマディ博士よりコレクションについて、近山晶氏が世界中から集めたサンプルなどとともに知見をご紹介させていただきました。最終回である今回は、ジェムミュージアムの最後のコーナー「宝石学の教育」について紹介します。
宝石学の教育
世界で最も早く宝石学の教育を始めた教育機関である英国宝石学協会。
1908年、ロンドンで設立し、1931年に再編成。さらに1947年、現在の法人組織となった英連邦の宝石学協会は、宝石学に対する理論と実技試験を設けたディプロマ教育コースを開催、世界中から学生を受け入れ、「FGA(Fellow of the Gemmological Association)」という宝石学のディプロマ会員の資格を与えてきました。
この教育機関は世界各国の宝石界に支持を得て、現在も国際的に最高権威を持つ学術教育研究機関として活躍しています。近山晶先生は1963年にこの資格に挑み、多くの難関を乗り越えて日本人2人目としてこの輝かしき栄誉を勝ち取ったのです。
近山先生は宝石に関する教育を始める以前は、宝石の硬脆研磨材料や精密加工技術などについて山梨大学工学部で研究されていました。その時に「バレル研磨法」、「非金属材料の精密加工」、「砥粒加工技術便覧」といった多くの著書を出版。愛郷心と業界振興のために自らの様々な犠牲も顧みず努力され、FGAを取得後からは日本において宝石の研究とその教育に専念し始めました。
宝石は世界的に貴重とされ、国際宝飾市場に流通しています。しかし、その取引と交渉には専門知識や実践的な技術がなければ良いキャリアを歩むことができません。
そこで近山先生は国内で初めて、国際宝飾市場に乗り出したい方々に向けてゼミ(近山ゼミ)や講習会などを立ち上げ。宝石学コース、ダイヤモンド・カラーストーン・真珠の鑑別コース、ジュエリーの評価コースなどで指導を始めました。英国宝石学協会のFGAと独自の教育を組み合わせ、充実したカリキュラムを使って、宝石の美しさ、科学的な特徴と魅力を教えていきました。
各カリキュラムに加えて、各国からの多種多様な宝石コレクション、色の標本、品質の標本、処理前後の見本石、各メーカーからの合成石・模造石を収集し生徒に公開。一般的な鑑別機器を活用し、実習参加型の勉強会、会員ゼミ、宝石貿易講習会を開催しました。
定期的に国内からの参加者へ宝石の全般的な知識と宝石の鑑別法、鉱山最新情報などを教えるなど、生徒たちのために尽力していました。なんとその卒業生の数は2千人以上にも及びます。そのような宝石教育活動は日本国内において最先端かつ最も専門的で、日本の宝飾業界の熱意を高め、専門商および一般需要層の理解の増大に大きく貢献していきました。
1:宝石市場で流通しているダイヤモンドの類似石
2:天然ダイヤモンドと照射ダイヤモンドを比較研究するために、天然ダイヤモンドを電子線で一定の条件で照射し、変化後の色を観察する標本
3:世界各産地から集められた天然ダイヤモンドの結晶
4:ロシアで熱水法により作られた合成水晶、アメシスト、シトリン、スモーキークォーツの結晶
5:天然と加熱コランダムの各変種の標本
6:ミャンマー産各種ヒスイの標本。樹脂含浸の処理が施されていない天然ヒスイ石
7:宇和島産無調色無漂白のアコヤ有核養殖真珠色標本
8:高知県から採集されたサンゴ標本。最も赤色のサンゴを宝飾業界では血赤と呼んでいます
それ以外にも近山先生は、近山晶宝石研究所の情報誌「Gemmological Review」、「各国の宝石原産地」、全国宝石学協会の情報誌「GEMOLOGY」、「ホリミネラロジー標本解説」、「宝石学会誌」などに絶え間なく寄稿し、「宝石、その美と科学」、「インクルージョンによる宝石の鑑別」、「宝石宝飾大辞典」、「宝石学必携」、「鉱物・宝石の不思議図解雑学」、「宝石手帖」、「Dictionary of Gemstones & Jewelry」などの著書と辞典を発行。
宝石について勉強する生徒たちのみならず、業界内の専門家、宝石研究者らに宝石の専門知識を与え続けてきた、まさに「宝石の父」です。
9:博物館の第三コーナー。近山先生が宝石教育に実習石として使用した各種コレクション
10:宝石鑑別のために使用される小型の分析機器
11:有機化石の各種標本。サン化石、珪化木、貝化石、カニ・魚・亀などの化石
12:200種以上の宝石類を教育講座にて活用。各宝石の変種がきちんと揃っています
近山先生が蒐集した全ての標本や資料、分析機器などを整理している現在、私は改めて先生の宝石学に対する情熱・専門性・教育熱心さを感じています。そしてここに深甚の謝意を表します。
今回の原稿で本連載は最終回となりますが、今後ともGSTVのファンの皆様には、GSTVジェムミュージアム「近山晶コレクション」へ是非お越しいただき、その魅力を自分の目で確かめていただければ幸いです。
※記事中の鉱物などの写真は、近山晶コレクションより選別され、撮影されたものです。
阿依 アヒマディ(あい あひまでぃ)
Tokyo Gem Science社の代表兼GSTV宝石学研究所の所長。
理学博士・FGA。国際鉱物学会(IMA)宝石素材委員会日本代表。国際宝石学会理事。京都大学理学博士号取得後、全国宝石学協会 研究主幹を務め、2012年にGIA Tokyoラボを立ち上げる。現在はTokyo Gem Science社の代表およびGSTV宝石学研究所の所長として、宝石における研究、教育セミナー、宝石鑑別などの技術サポートを行っている。宝石の研究、鑑別に関して日本を代表する宝石学者。
GSTVジェムミュージアム
完成した「GSTVジェムミュージアム」。日本における宝石研究の大家、近山晶先生が収集した貴重な試料を展示し、日本の宝石の歴史を後世に伝えていきます。
「GSTVジェムミュージアム」はアヒマディ博士とそのスタッフの協力により貴重な標本が整理され、展示されてます。
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