「このへんでお酒が飲めるレストランはここだけなんですよ」

　そういって目の前の女性は手に持っていた瓶ビールを傾ける。たまたま相席した彼女は日本からの学生旅行者で、明日帰国の途につくそうだ。
　「時間があるうちにインドに行きたいって思ってましたが来て大正解でした」
恍惚とした表情でサブジをつまむ彼女に好奇心半分で問いかける。
「なら、明日からインド観光を楽しみたい私にオススメを教えてくれないか」
うーんと目を閉じ少しだけ悩んだ様子の彼女を見て自国にいる娘を思い出す。

「あ、INAマーケットよかったですよ。入場にお金かかるけどその分ゆっくり買い物ができますし。これもそこで買ったんです」
そういって差し出された彼女の左腕には細かい彫り物がされた太めの金色のバングルが光っていた。

「なんでも、ジュエリーを身に着けずにでかけることはないくらいインドの女性にとって身近なもので、中でもイエローゴールドが主流だそうです」
なので記念に買いました！と朗らかに彼女は笑ってまたサブジを口にした。

「じゃあ、明日はそこに行ってみようかな」
私の言葉に彼女は更に笑みを深くして
「そうと決まればもう一本ビール飲んじゃいましょう！」
そう言って手を挙げた彼女の腕を金色のバングルが流れて行った。