ジェムストーン講座

バイヤー内藤、宝石を語る。「パライバトルマリン」

2016年4月1日

石の買い付けからデザイン、製造販売まで一貫して行うGSTVだからこそご紹介できる高品質なジェムストーンの数々。スーパーバイヤーとともに数々の鉱山や海外マーケットに足を運んだ内藤秀治が解説するGSTVジェムストーン講座です。

今回はパライバトルマリンをお送りします。

(番組ガイド誌2016年4月号掲載記事をWEB用に再編集しております)

歴史の浅い石「パライバトルマリン」

今回は我々GSTVのイメージカラーにもなっているパライバトルマリンについて。

パライバトルマリンは非常に歴史の浅い宝石で、発見されたのは1987年、わずか29年前です。そしてその浅い歴史の中で、すでにブラジルの2つの鉱山が幕を閉じています。

産出地を発見した、エイトル・ディマス・バルボサ

この美しく稀少な宝石を発見したのは、エイトル・ディマス・バルボサ(Dimas Barbosa)。彼はパライバ州サン・ホセ・デ・バターリャの乾燥した灼熱の土地の丘を、飲み水もほとんど無いまま揺るぎない信念を持ち、7年もの間ペグマタイトの鉱床を探し続け掘り続けました。

そして、1987年8月、世界で最も稀少な宝石の一つと呼ばれる宝石の産出地を発見したのです。そして、この産出地から蛍光性の強い他の宝石とは比べようのない鮮やかなブルーを持った宝石が発見されたのです。

実はバルボサ氏よりも前にパライバトルマリンは発見されていた

バターリア産パライバトルマリン

宝石業界ではこのバルボサ氏がバターリアのパライバの発見者と言われていますが実は違うのです。

彼が発見したのは産出地であり、宝石の発見ではありません。パライバトルマリン自体は、彼よりも前に発見されていたようなのです。

バルボサ氏は、信念だけで有るか無いかわからない宝石を、しかも飲み水のない灼熱の地を探し続けたのでしょうか。それは非常に無謀なことです。バルボサ氏は見ていたのです。見たこともないような色鮮やかな宝石を、青く輝き吸い込まれるような魅力的な宝石を……。

名も無きガリンペイロがパライバトルマリンを発見

実は1人のガリンペイロがこの宝石を持っていたのです。ガリンペイロとはポルトガル語で金や鉱物を発掘する人のことです。今となっては真相はわかりませんが、名も無きガリンペイロがブラジルの広い大地のどこかでその宝石を見つけていたのです。推測になりますが、深く掘り進んでいたとは考えにくいので近くに漂砂鉱床があったのかもしれません。漂砂鉱床とは鉱物が生成されて地殻変動や火山活動により地表に現れ川などによって流され違う場所で発見される鉱床の事です。そして、その宝石を見たバルボサはどうしてもその宝石のありかを見つけたかったのでしょう。それが揺るぎない信念となったのだと思います。

しかし、名も無きガリンペイロはどこでその宝石の原石を見つけたのでしょう?発見した近くを掘って、もっとたくさんの原石を探そうとしなかったのでしょうか?そのエリアをバルボサに教えたのでしょうか?それにしては探し始めてから発見までに7年もかかっています。7年もの間の収入はどうしたのでしょう?どのような生活を送っていたのでしょうか?

「?」だらけなのですが、とにかくバルボサはその輝く青い石を見つけることが出来たのです。

幕を閉じたバターリア鉱山

これが鮮やかなネオンブルーの石の発見となりパライバトルマリンが世に知られることとなりました。その後、バターリア鉱山の採掘権が確立するまでに数年を要し1998年にやっと訴訟問題が解決してバルボサ氏が80%、デ・スーザ―族が20%を手にしました。

しかし、時すでに遅く1991年までに採掘された1万立方キロメートルに及ぶ岩石の中でわずか15kgほどしか良質な原石は存在せず、その後2002年初頭から重機を入れ本格的に採掘をしましたが、良質な原石はほとんど発見されることがなく、鉱山は幕を下ろしました。

バターリア産パライバトルマリン

番組内でも時々バターリア産のパライバを紹介していますが最近ではほとんど仕入れがありません。仕入れのきっかけはアメリカのツーソンにおけるジェムショーが多く、ブラジルの鉱山関係者が鉱山の採掘権が確立する以前に手にしたものがほとんどです。

特に、研磨工場を持つ鉱山関係者は研磨工場を稼働するために、色々な種類の原石を持っていることが多いのです。

キントス産 パライバトルマリン

▲ キントス産パライバトルマリン

次に発見された鉱区はキントスで、ドイツの老舗の業者が採掘権を持ち、採掘されたすべての原石がドイツに行きドイツで研磨された石が世界に出ています。

今でもキントスの石はその業者から入手することはありますが、数量はごくわずかです。

バターリアの石よりも色が薄くグリーンを含んでいるものが多く現在のモザンビーク産のトルマリンによく似ているように感じます。

ムルング産 パライバトルマリン

▲ ムルング産パライバトルマリン

ブラジルでは現在リオ・グランデ・ド・ノルテ州のムルングで産出されていますが、産出量は年々減っています。

以前のような定期的な仕入れも減り、また1ctを超える大きな石を目にする機会も減ってきました。ポケットと言う鉱区の中で突然ぽっかり空いた空洞があり、大きな原石の塊がいくつも発見される場所が見つかれば、良質で大きなものが出てくるかもしれませんが、大きな期待はできないのが現状です。

モザンビーク産 パライバトルマリン

▲ モザンビーク産パライバトルマリン

インターナショナルなジュエリーショーではモザンビーク産のパライバトルマリンが主流で、加熱技術の発達も伴い綺麗な石を見る機会が増えました。

ただし流通経路が長くなるにつれ原石の出処と情報があいまいになり、産地不明や間違った情報のまま売りに出されている場合もあるので注意が必要です。

\もっと見たい方!/
GSTVでは、様々なパライバトルマリンのジュエリーを種類豊富にご用意しております。

内藤 秀治(ないとう しゅうじ)

宝飾品職人から宝石バイヤーを経てGSTV入社。仕入れの責任者として海外で原石を買い付け、作りの細部にまでこだわるバイヤー。

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