ストーンカメオ講座

世界三大カメオをもとめて その3 フランス・パリ編【ストーンカメオ講座】

2020年9月30日

 カメオの歴史をひも解くうえで欠かすことのできない世界三大カメオは、ヨーロッパ各地の著名美術館に収蔵されています。今回は「フランスの大カメオ」(フランス国立図書館所蔵)をご紹介いたします。

(番組ガイド誌「GSTV FAN」 2020年10月号掲載記事をWEB用に再編集しております)

フランス国立図書館 旧館(リシュリュー館)

フランス国立図書館 旧館(リシュリュー館)※写真出所:フランス国立図書館ホームページ

 フランスの首都パリ。芸術の都や花の都と呼ばれる人口約220万人のこの美しい街は、皆さまもよくご存じのとおり、年間外国人観光客数世界一を誇る観光都市です。国立図書館旧館は、パリ2区のリシュリュー通りにあることからリシュリュー館とも呼ばれ、1994年に新館(フランソワ・ミッテラン館)が完成し膨大な書物が移されてからは、版画、メダル、骨董品のコレクションが所蔵されています。ルーブル美術館やパレ・ロワイヤル、オペラ座など歴史的建造物が立ち並び観光客にも馴染みの深いパリ中心部の1区に隣接し、“パリらしい”美しい街並みの中にあります。

 この図書館の素晴らしさは何といっても、壮大な読書室でしょう。丸天井がいくつも並びホールのような高さがある、広くて重厚感漂う空間です。私はこの読書室を訪れた際、物語の中に吸い込まれてしまったかのような錯覚を起こしました。それもそのはず、1875年から読書室として130年近く使用されてきたホールなのです。フランス語の書籍が読めなくても、読書室にいるだけで歴史を感じることができる場所です。先日、たまたま書店で見かけたある雑誌の表紙に「世界の『美しすぎる図書館』6選」として、この読書室の写真が載っており驚きました。2010年より改装工事中のため入ることはできませんでしたが、2017年に一部工事が完了しこのホールには入れるとのことです。次にパリを訪れる際は、必ず立ち寄ろうと私は心に決めています。

国立図書館旧館と筆者

 こんな素晴らしい図書館に所蔵されているフランスの大カメオ。私が直近で訪れたのは2004年のことですが、今も強烈な印象とともに鮮明に覚えています。長く直線状に続く階段を一段ずつ上り、3階の展示室に入ったとき、思わず息をのみました。たくさんのカメオが並ぶその展示室に、際立つ大きなカメオが…そう、フランスの大カメオです。私は、その圧巻の大きさと彫刻のダイナミックさに目が釘付けになりました。

世界三大カメオ フランスの大カメオ

世界三大カメオは、その歴史的価値と大きさ、美しさから 他に類をみないカメオであると言えます。

  1. タツァ・ファルネーゼ(紀元前175年頃、ナポリ国立考古博物館所蔵)
  2. ゲマ・アウグステア(紀元9-12年頃、ウィーン美術史美術館所蔵)
  3. フランスの大カメオ(紀元24年頃、パリ国立図書館所蔵)

 フランスの大カメオは、世界三大カメオの中でも一番の大きさを誇り、約27×32cmの複数の層からなる茶褐色のめのうに彫られています。今に残る古代ローマ帝国の宝物の中でも非常に貴重で希少な彫刻品です。これだけ大きなカメオを彫刻するためには、非常に高い技術と膨大な時間が不可欠であり、当時大きな権力のもとに彫刻されたと考えられます。また、現在でさえ、大きく良質な複数層からなるめのうを調達するのは非常に難しく、今から2000年近く前にこのカメオが彫刻されたことは、素材調達の面からも驚くべきことです。

 フランスの大カメオ(右は、筆者が2004年に撮影したもの)

 また、フランスの大カメオは、古代肖像学的見地から正確に年代が推測され、ティベリウスがローマ皇帝であった時期(紀元14〜37年)の作品と言われています。バルドゥイーン2世がルードヴィッヒ9世に寄贈したもので、パリの聖シャペル教会の宝物殿で発見され、1341年に初めて世に紹介されました。彫刻内容を見ていくと、当時の皇帝の権力を物語った興味深いストーリーが見えてきます。彫刻は三段の構成になっており、中段の中央には皇帝ティベリウスを中心に、豪華な椅子に寄りかかる女王リウィアの姿など華やかな貴族社会が彫刻されています。手前の人物は凱旋将軍のゲルマニクスです。上段には天国の様子が表され、中央でステッキを持っている人物が皇帝アウグストゥスです。手前にはアジア風の衣装に身を包んだ女性が地球儀を掲げ、右側には騎士のまたがる馬の手綱を取るエロスの姿が見えます。下段にはゲルマニクスに敗れた捕虜たちの姿が彫刻されています。一つのカメオの中に異なった三つの世界を意味する三段のモチーフが彫刻されているのです。

 国立図書館旧館の展示室。国王ルイ14世の仕事部屋だった場所。
前の赤いクロスのかかった机にはたくさんの引き出しがあり、カメオコレクションが収納されていた。

 国立図書館旧館の改装工事は一部完了したものの、フランスの大カメオ展示エリアは現在も改装工事中であり、残念ながら見学することができません。担当者からの回答によるとすべての改装工事の完了予定は2021年とのこと、フランスの大カメオを見ることができるのはもう少し先になりそうです。

※本記事はGSTV番組ガイド誌2016年3月号の内容を改変したものです。

三沢 一章(みさわ かずあき)

長年に渡りドイツジュエリーを研究。イーダーオーバーシュタインの宝石を日本に紹介すると同時にストーンカメオの研究家でもある。

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