インタビュー

~地球の奇跡・熱水気体起源の宝石/前編~【近山コレクション見聞】

2023年1月31日

(番組ガイド誌「GSTV FAN」2023年2月号の掲載記事をWEB用に再編集しております)

 様々な環境と地質作用により形成される「宝石」。その形成プロセスは主に5つで、前号までにご紹介した火成岩、ペグマタイト起源の宝石に引き続き、今回は「熱水気体」起源の宝石を近山先生が世界中から収集したサンプルとともにご紹介します。
 GSTV FAN読者で宝石愛好家の皆様でも、熱水や気体からでも宝石が形成されるとご存じの方はごく少数かと思われます。地表での場合、水は100度で沸騰し蒸発しますが、マグマの上昇した熱により、地下での水の温度は数百度にも及びます。金、銀、銅、鉛の鉱床は、このように高温な熱水の沈殿や交代作用によって形成されます。瑪瑙や水晶、アメシストなどの宝石も挙げられます。

Type3.熱水気体起源の宝石①

 マグマが冷却すると発揮性成分をあまり含まない火成岩の固体ができ上がります。ケイ酸塩鉱物が完全に晶出を終え、マグマから分離した高温状態な揮発性の熱水溶液が熱とともに放出されると高温の気体も発生。それらが地表に向かって移動した際に、周囲の岩石の割れ目や隙間に侵入し集まります。そこから圧力が下がるにつれ、熱水と気体に含まれたリチウム、ベリリウム、フッ素、スズ、タングステン、モリブデンなどを含む有用鉱物と宝石が形成されていきます。
また、熱水とガスがすでに存在していた岩石や鉱物などと接触し、変質を与えたり溶解したりして交代作用を起こし、溶解した成分が沈殿して別の鉱物と宝石も誕生させます。このような鉱床が熱水鉱床や気成鉱床と呼ばれています。熱水は深さによって深熱水性(300~400℃)、中熱水性(200~300℃)、浅熱水性(100~200℃)、遠熱水性(100℃以下)と分類され、分布位置によって鉱脈鉱床、網状鉱床、洞穴充填鉱床、交代鉱床、鉱染鉱床などになります。

 熱水気体起源の宝石として最も有名なのはコロンビアのエメラルド。アンデス山脈で地殻変動が起こり、地下からベリリウムを含む熱水と気体が何度も地表付近まで運ばれ、周囲のクロムやバナジウム微量元素を含む堆積岩と接触し化学反応を起こして、岩石の割れ目や隙間で結晶が形成されます。エメラルドが包有する三相(気体、液体、固体)インクルージョンにその特徴がみられます。鉱脈の熱水中で結晶成長する際に、200~400℃程度の熱水が結晶に取り込まれ、その冷却で液体から気体(二酸化炭素)が分離、高濃度の塩類(塩化ナトリウム)の結晶が析出します。この三相インクルージョンは熱水鉱床を知る重要な指標となります。
ちなみにアンデス山脈西部には世界で最も有名なムゾー鉱山、コスケス鉱山以外にもラピタ、ヤコピ、ペナ・ブランカ鉱山が、東部にはチボール、ボゴタ、ガチャラ鉱山などがあり、すべて熱水気体鉱床となっています。

「近山晶コレクションより」

1:マグマの熱水が上部の黒色頁岩の割れ目に浸入し、周囲の岩石から一部の元素と化学反応し、最高品質のエメラルド結晶が形成されています。コロンビアのムゾー鉱山産

2:熱水鉱床の指標となるコロンビア産エメラルドに含まれる三相インクルージョン

GSTVジェムミュージアム

GSTVジェムミュージアム 近山晶 宝石コレクション

完成した「GSTVジェムミュージアム」。日本における宝石研究の大家、近山晶先生が収集した貴重な試料を展示し、日本の宝石の歴史を後世に伝えていきます。

スタッフ

「GSTVジェムミュージアム」はアヒマディ博士とそのスタッフの協力により貴重な標本が整理され、展示されてます。

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