旅先ジェリー

旅先ジュエリー ~ニューヨーク編~

2020年1月1日

  この旅のスタートはあまり良いものではないようだ。
 止まった腕時計を見て私はそう思った。今日は美術館に行くつもりだったが、運よく時計の看板を下げた店を見つけたので交差点の向こう側に足を運んだ。

 重い扉を開けた先は、ほんのりと機械油と珈琲の香りがした。
「なぁに、すぐに直してやるから店内を見て待ってなさい」
 店主に事情を説明すると彼はたっぷりと蓄えたあごひげを数回撫でてから年季の入った作業机に向かった。
「出張かい?」
「いえ、この街から赴くままに旅をしようかと」
「真冬のニューヨークをスタートにするなんて変わってるな」
 質問に答えながら店内を見ていると、美女の横顔が彫刻されたカメオの隣にそれはあった。
 見知らぬ男の横顔が刻印された金貨を模したペンダント。お世辞にも綺麗とは言えないそれに、私はひどく引きつけられた。
「気に入ったのかい」
 急にかけられた声に振り返ると、先ほどはかけていなかった眼鏡をかけた店主が腕時計を差し出しながら立っていた。
 頷きながら時計を受け取ると耳になじんだ秒針の音が聞こえる。
「それなら持っていくといい。物言わぬ相棒ならいても構わないだろう?」

 ペンダントを首に下げてから店を出るとお行儀よく並んだビルの隙間に夕日が沈み始めていた。
「この旅は悪くないかもしれない」
 私の言葉に相棒はキラリと光った。

-旅先ジェリー

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