バターが香るクロワッサンと大きめのボウルに入ったカフェ・クレーム。憧れのパリの朝食を目の前に心は明るくなるが、空はあいにくの分厚い雲に覆われていた。
今日は昨日手に入れたミュージアムパスを使って市内の美術館をできる限り巡る予定だ。室内にいる時間のほうが長いだろうが、雨に濡れずに過ごせるようぼんやりと願った。
昨日訪問済みの世界で一番有名な美術館は絵画の展示はもちろんのこと、フランス王朝の工芸品も見事だった。なかでも、王室御用達宝石細工師の手掛けたティアラは他と比べても群を抜いており、これを身に着けた女性はより一層美しく輝いて見えたことは想像に容易かった。
——ティアラを身に着けたプリンセス
その言葉で思い出すのは有名だからという理由で学生時代に観て以来、何度も見返している王女と新聞記者のラブストーリーだが、その舞台を巡るのはこの旅の最後に残してあるのでそれまでの楽しみとしておこう。
ひとまず、ここから目当ての美術館まではメトロでの移動になる。見慣れない路線図と格闘する前に私は千切ったクロワッサンをゆっくりとボウルに浸した。