インタビュー

地球の奇跡・有機生物起源の宝石【近山コレクション見聞】

2023年7月31日

(番組ガイド誌「GSTV FAN」2023年8月号の掲載記事をWEB用に再編集しております)

 様々な環境と地質変化により形成される「宝石」。前号までに火成岩、ペグマタイト、熱水気体、変成岩、堆積岩起源と、主要な5つのプロセスについて解説してきました。今号では鉱物から変わり、有機生物起源の宝石についてを近山先生が世界中から収集したサンプルとともに紹介します。

Type6.有機生物起源の宝石

 生物起源の宝石は生体鉱物と呼ばれ、生命活動によって形成された鉱物と異なり独特のツヤ感と輝きを持ちます。

動物起源・現在型と化石型の有機宝石として、真珠、サンゴ、象牙、べっ甲、シェール、角、骨、化石サンゴ、化石アンモライト、化石オパールなどが挙げられます。

植物起源・化石型の有機宝石は、琥珀やジェット、珪化木などが代表的です。

 有機宝石の成因は無機宝石と根本的に異なり、動物と植物の活動に関係しています。動物の器官と組織に関連したり、生物の生理作用に関連する物質であったりと、生物生理学と生物結晶鉱物の規律に属します。人工合成の過程は含まれません。

無機鉱物宝石と同様に、有機宝石にも美しさ、希少性、耐久性が求められます。

真珠

二枚貝や巻き貝の軟体動物体内で生成され、貝殻から作り出される炭酸塩鉱物――アラゴナイト結晶。結晶層内にタンパク質が含まれています。

天然と養殖起源の真珠は主に、アコヤ真珠、白蝶真珠、南洋真珠、マベ真珠、淡水真珠、コンクパール、メロパール、アバロンパールなどがあります。

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1:真珠の色標本

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2:中国では古くから淡水貝を用いて仏像入り貝殻付き真珠制作のために盛んに貝が養殖されていました

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3:らせん状の巻貝。彫刻されたコンク貝のカメオ

サンゴ

深海に生息し、樹枝状じゅしじょうの群体として成長した石灰質の綿密な骨格。宝石として挙げられるのは赤サンゴ(血赤サンゴを含む)、モモ色サンゴ、白サンゴ。また、サンゴは稀に化石化し、山サンゴ、サンゴ化石として販売されるケースもあります。

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4:サンゴの色種分類の標本

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5:日本周辺の深海に生息した赤サンゴ、モモ色サンゴ、白サンゴの三種類

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6:アメリカのフロリダ州タンパ湾で生息するサンゴが化石化した標本

象牙

象の牙。硬い性質を持ち、宝飾市場に登場する宝飾品や彫刻品や印章などはほとんど現代のアフリカ象やアジア象から切り落とした象牙が使用されています。

しかし現在、絶滅の恐れがある動物として、ワシントン条約と国内法に基づき、その取引は規制されています。旧石器時代の遺物として、マンモスの牙で作られた古代の道具や彫刻品、イスラム美術品などを稀に見ることもあります。

象牙の類似品として、セイウチ、カバ、クジラ、イノシシの牙も頻繁に使用されています。

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7:日本の岩手県姉帯あねたい小鳥谷こずや根反ねそり珪化木地帯けいかぼくちたいから採集された火山灰に埋められた針葉樹からできた珪化木化石

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8:アフリカ象の象牙標本と繊細に彫刻されたアイボリー卵

べっ甲

亀の甲羅。主にタイマイの背中とお腹の角質からなる鱗板状りんばんじょうの甲を用いて、数枚を加熱しながら圧力をかけ、厚みのある板状の加工ベースから工芸品や宝飾品などを作成します。

眼鏡のフレーム、櫛、かんざし、帯、ブローチ、ボタンなどによく用いられています。

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9:インド洋に生息するタイマイー亀の標本。背中と腹部の甲羅が加工されべっ甲工芸品に使用されます

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10:最外層部にある鱗板状りんばんじょうの黄色と濃褐色の斑点を持つ甲羅

シェール

炭酸カルシウム結晶から形成された貝殻。
主に三方晶系さんぼうしょうけい方解石ほうかいせき斜方晶系しゃほうしょうけいのアラゴナイトの二種類があり、結晶層の間にコンキオリンと呼ばれる有機質が含まれています。このうち、海水産二枚貝はアラゴナイトから水平方向に積み重なった構造でできているものと、斜めに傾いた交差板構造でできているものがあります。

らせん状の巻貝には方解石ほうかいせきとアラゴナイトからできた稜柱層りょうちゅうそう構造を持つものがあります。淡水産二枚貝はほとんどアラゴナイトからレンガ積みのような真珠構造と葉状構造でできています。

古生代から中生代に生息した貝殻が化石化したもので最も代表的なのは、巻貝のアンモナイトと小さな巻貝の群体でできた「菊石きくいし」化石です。

宝飾品として遊色効果を持つアンモライトは、やはりアンモナイトの稜柱層りょうちゅうそう構造が化石化によってアラゴナイトの微細な層状構造に変化し、表面層に入った自然光が干渉して反射してきた光が様々な色として見えます。また、オパール化した貝殻やイカなどの化石もあります。

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11:オーストラリア産のオパール化した貝とイカの標本

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12:強い遊色効果を持つカナダ・ロッキー山脈から産出されたアンモライト。地中で7000万年の時を経て、化石化したアンモナイトから変化したもの

琥珀

針葉樹と広葉樹から分泌した天然の樹脂からできた化石。樹液が土に埋められ、長い地質年代を経て、高温高圧の環境下で低分子構造が高分子構造に変化し、丈夫な重合体の樹脂になっていきます。

数百万年から億年以上のものは琥珀に、それより若い数万年から数十万年のものをコーパルに分類しています。

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13:アメリカ産、小柄の巻貝の群体から構成された化石。瑪瑙めのうの成分でできています。日本では「菊石きくいし」とも呼ばれていました

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14:世界各地から集められた琥珀とコーパルの標本

ジェット

植物樹木は地層内で長い地質年代を経て化石化した準鉱物です。琥珀のような樹脂ではなく、石炭のような黒色の褐炭かったん。「黒玉」とも呼ばれます。

珪化木

樹木が枯れて圧力がかかる地中に埋められ、数千万~数億年の年月をかけて、木の細胞組織に珪素や酸素でできた化合物に変わった、石英や水晶や瑪瑙めのうのように硬い化石化した木。

 GSTV宝石博物館・近山晶コレクション。前号までに自然界で5つの環境から形成された美しい鉱物や宝石結晶などについて述べてきましたが、今回は有機宝石についても取り上げてご紹介しました。この博物館は地球から生まれた奇跡的な宝を学べる最適な施設であると思っております。

今後、GSTV FANの方々に是非ともお越しいただき、その素晴らしい魅力をご自身の目でご鑑賞いただきたいと願っております。

※記事中の鉱物などの写真は、近山晶コレクションより選別され、撮影されたものです。

阿依 アヒマディ(あい あひまでぃ)

Tokyo Gem Science社の代表兼GSTV宝石学研究所の所長。
京都大学理学博士号取得後、全国宝石学協会 研究主幹を務め、2012年にGIA Tokyoラボを立ち上げる。現在は宝石科学のコンサルタントとして、宝石における研究、教育セミナー、宝石鑑別などの技術サポートを行っている。宝石の研究、鑑別に関しては日本を代表する宝石学者。

> 阿依 アヒマディのプロフィール・Q&A

GSTVジェムミュージアム

GSTVジェムミュージアム 近山晶 宝石コレクション

完成した「GSTVジェムミュージアム」。日本における宝石研究の大家、近山晶先生が収集した貴重な試料を展示し、日本の宝石の歴史を後世に伝えていきます。

スタッフ

「GSTVジェムミュージアム」はアヒマディ博士とそのスタッフの協力により貴重な標本が整理され、展示されてます。

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