イタリアの風景はどこを切り取っても映画のワンシーンの様だった。帰国したら見せようと思って慣れないながらも撮り溜めた写真を見返しながら、私は搭乗の時間を待っていた。
特にローマやフィレンツェは趣深く、十何年前に訪れたきりだったが変わらぬ美しい街並みがそこにあった。あの日の旅を辿るように街を散策し、ジェラートを食べ、泉に銀貨を投げ入れた。
君が気に入ったヴェッキオ橋は相変わらずの賑わいであったが、金相場の上昇から宝飾店の店先では前の旅行でプレゼントしたようなリングは到底お土産にできない価格となっていたので、スリランカで購入したサファイアをアンティーク調のリングに加工したらどうかというアイデアだけ持って帰ることになってしまった。
さて、搭乗開始のアナウンスも聞こえてきたので、いよいよこの旅は終わりを告げることになった。一人で来た割にいつも君の姿を探し君のリアクションを想像してしまう、どこか情けない男の一人旅になってしまった。
日本に帰ったら話したいことも渡したいものも見せたいものもたくさんあるから、どうか飽きずに最後まで聞いてほしい。
ゆっくりと待合のベンチから立ち上がると、この旅を見守ってくれた金貨がカサリと音を立てた。
さぁ、帰ろう