中世のヨーロッパとして思い描くイメージの通りの景色が、タリンの街には広がっていた。
そんな石畳のメインストリートから少し外れてみようと思ったのはただの好奇心だ。このまま進めば目当ての教会までそんなにかからず到着するし、なによりからりとした秋晴れの空の下をもう少し歩きたくなったので、気分のままに曲がってみることを決めた。
細い脇道を歩いて行くと、目の前が急に開け切り取ったような青空が広がった。広場のようなそこには大きめのテーブルとイスがいくつか配置されており周りを囲んでいた建物は、どうやら工房のようだった。思いがけず面白い場所へ辿り着いた私は手前の工房からぐるりと一周してみようと思い店先に木工細工を並べる店へ足を踏み入れた。
目を奪われたのは周り初めて2~3件目の店でのことだった。べっこう飴のような色をした宝石―琥珀を使ったカフスの前でぴたりと足が止まってしまったのだ。
「琥珀は植物の欠片やヒビ、太古の空気を含んでいる石なんだ。もちろん同じものは存在しないし、作れるわけもない。そこで足を止めたというのは、その琥珀に惚れたか、琥珀に呼ばれたか。どちらにしても良縁だと思うな」
店主のうまい言葉に乗ってしまい、気付いたらカフスを入れた紙袋を手に店を後にしていた。次の店はチョコレートショップのようだ。少し冷えた体のためにホットチョコレートでも買って、テーブルで手の中にある琥珀をもう一度眺めてみよう。