―ルーフトップバーでお酒が飲みたい
ベース音の効いた音楽を聞きながら、少し折り目のついてしまったノートをひらき『タイに到着したらしたいこと』へ書いた項目にチェックを入れた。高層ホテルの屋上から見下ろすバンコクの夜は、まだ始まったばかりということもあり熱気を孕んでいた。
カラリとモヒートをひとまぜして口に含みながら、青から赤へ変化した間接照明を眺めていると、昼間に色々な寺院を巡るツアーの最中にジュエリートレードセンターというところに行ったことを思い出した。私には名前のわからない宝石たちが美しく飾られており、タイへは他の国で採石されたルビーが多く集まっているとの説明を受けた。ルビーはサファイアと同じコランダムの仲間ということも聞き、ルビーの情熱的な赤色に私が惹かれたというのもあり、同じならこれを買って帰ればいいかと思いもしたが後で彼女に怒られてしまうような気がして慌てて手を引っ込めた。やはり買っておけばよかったかなと少し後悔し始めた頃、少し湿り気を帯びた風がふわりと前髪を揺らした。
どうやら席についたときよりも少しだけ気温が下がったようだ。
―ウィークエンドマーケットで買い物がしたい
明日はこれにチェックを入れるために早起きが必要だ。
私はモヒートを飲みほして、ノートを閉じた。