結晶の世界（前編）【近山コレクション見聞】

（番組ガイド誌「GSTV FAN」2023年9月号の掲載記事をWEB用に再編集しております）

　様々な環境と地質変化により形成される「宝石」。前号までにその起源と主要な5つのプロセス、それに加えて有機生物起源の宝石について解説してきました。今号では「結晶」について、近山先生が世界中から収集したサンプルとともに紹介します。

Type7．結晶の世界（前編）

　宝石用原石としてカットされる結晶。「完全」「透明」「清澄」なイメージがあり、近山先生が長年集めた宝石の結晶はまさしくイメージそのものです。
　平らな面で囲まれた結晶は原子の配列が一定のパターンを持ってできた固体で、独特の幾何学形で成長します。古代の人々は無色の結晶を、ギリシア語の「Kryos（クリオス）」から派生した「Krystallos（クリスタロス）」と呼びました。その意味は「氷のように冷たい」。決して溶けない氷と思っていたようです。

　十分に成長した結晶は、非常に美しく大変貴重です。結晶の美しさによってはカットした宝石よりも高価格で取引されることもあります。
地球内部のマグマの液体と気体からできた結晶、高温高圧作用によって固体が溶解し再結晶化しできた結晶には、外観から、完全透明な無色結晶、完全不透明な結晶、不完全塊状の結晶、樹枝状じゅしじょう結晶、針状しんじょう結晶、放射状結晶、鍾乳石状結晶、豆状結晶、球状結晶、刀状じんじょう結晶、サンゴ状結晶、層状結晶、双晶、集合体、色付きの結晶、色が変化する結晶――といった様々なものが見られます。

　結晶学的に、結晶は規則正しく成長した特徴を持ち、対称の要素があり、対称心・対称軸・対称面という3つの要素から結晶の形態を七つの晶系に分類されています。

　近山晶コレクションの「Crystals World」陳列コーナーには近山先生が宝石学教育のために集めた七つの結晶系に属する、世界各国から集めた大変美しい宝石のあらゆる結晶が並んでいます。

等軸晶系（立方晶系）

ダイヤモンド、ガーネットグループのパイロープ／アルマンディンガーネット、ロードライトガーネット、スペサルティンガーネット、グロッシュラーガーネット、デマントイドガーネット、ウバロバイトガーネット、スピネル、蛍石、パイライト

1：六面体や五角十二面体を示すパイライト結晶

2：様々な化学成分を持つガーネット

3：八面体のダイヤモンド結晶

4：赤い八面体のスピネル結晶

5：ハロゲン化鉱物六面体蛍石。へき開によって正八面体に割れる

六方晶系

ベリルグループのエメラルド、アクアマリン、レッドベリル、モルガナイト、ヘリオドール、ゴシェナイト、アパタイト、フェナカイト、べニトーアイト

6：異なる地質環境でできた六角柱状のエメラルド結晶

7：サファイアの色に似た母岩中のベニトアイトの結晶（アメリカ･カリフォルニア産）

8：エメラルドと同じ成分だが、微量元素鉄によってスカイブルーの色を示す六角柱状アクアマリンの結晶

9：エメラルドと同じベリルグループのメンバーであるモルガナイトとヘリオドール結晶

三方晶系

コランダムグループのルビー、サファイア、パパラチア、多色多彩のトルマリングループのアクローアイト、ルベライト、インディコライト、ドラバイト、ショール、パライバトルマリン、バイカラートルマリン、ウォーターメロントルマリン、水晶、メノウ、アメシスト、シトリン、カルサイト、ロードクロサイト、スミソナイト

10：平板状の六角形と柱状六角形を示すルビーの結晶

11：微小な菱面体りょうめんたい結晶からできたブドウ状の外観を示すスミソニアン

12：世界各国産のスモーク水晶群

13：水晶群

14：三方向に完全にへき開するカルサイト結晶は複屈折量が大きいため、二重に見える光学特徴があり、柱状や菱面状りょうめんじょう、板状の形状を示す

15：最も多くの変種、最も多くの色を持つトルマリンはペグマタイト起源の代表的な宝石

16：ロードクロサイト結晶。アルゼンチンではハムのような層状の結晶やバラのような縞状しまじょう結晶が産出される

17：アメシストの単結晶と群晶

※記事中の鉱物などの写真は、近山晶コレクションより選別され、撮影されたものです。

阿依 アヒマディ（あい あひまでぃ）

Tokyo Gem Science社の代表兼GSTV宝石学研究所の所長。
京都大学理学博士号取得後、全国宝石学協会 研究主幹を務め、2012年にGIA Tokyoラボを立ち上げる。現在は宝石科学のコンサルタントとして、宝石における研究、教育セミナー、宝石鑑別などの技術サポートを行っている。宝石の研究、鑑別に関しては日本を代表する宝石学者。

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GSTVジェムミュージアム

完成した「GSTVジェムミュージアム」。日本における宝石研究の大家、近山晶先生が収集した貴重な試料を展示し、日本の宝石の歴史を後世に伝えていきます。

スタッフ

「GSTVジェムミュージアム」はアヒマディ博士とそのスタッフの協力により貴重な標本が整理され、展示されてます。