ストーンカメオ講座

ストーンカメオの彫刻技法 手彫り その1【ストーンカメオ講座】

2019年10月1日

 ストーンカメオの彫刻技法についてご紹介いたします。今回は、「手彫り」について。彫刻の現場を知り尽くした者の一人として、詳細な部分まで責任を持ってお伝えいたします。

(番組ガイド誌「GSTV FAN」 2019年10月号掲載記事をWEB用に再編集しております)

ストーンカメオ彫刻技法「手彫り」

 ストーンカメオの彫刻技法は、「手彫り」と「機械彫り」の2つに大別できます。さらに、機械彫りの中で、手仕上げの工程を多く組み入れた「ハンドフィニッシュ」という技法があり、それを含めるとストーンカメオの彫刻技法は3種類であると言えます。昔から脈々と続くカメオ彫刻の基本とも言える彫刻技法「手彫り」についてご説明いたします。

カメオ彫刻風景(マティアス・ポストラー氏)
現在は使用されていない足踏み型の彫刻機

 手彫りによってストーンカメオを生み出す彫刻家は、ドイツ・イーダーオーバーシュタイン近郊に約20名います。その彫刻家の中で、現在もカメオ彫刻を主に活動し、素晴らしいカメオを作っているのは10名ほどです。彫刻家の少なさに驚かれた方も多いと思いますが、特筆すべきはこの手彫りの彫刻技法がなんと2000年以上も前から引き継がれてきている技法ということです。長い歴史の中で、動力は人力から電力に変わったものの、固定された回転工具に縞メノウを押し当てて彫刻するという技法は同じなのです。

 さて、具体的にどのように彫刻していくのか順を追ってご説明しましょう。

(1) 材料選び

 手彫りですから板状や器状であってもどのような形状のものでも彫刻できます。数ミリから数十センチまで大きさは様々です。必要に応じて、縞メノウそのものを切断したり磨いたりして形を整えます。天然の層を利用して表現していくため、この材料選びの工程は非常に大切です。材料となる美しい層を持つ縞メノウはとても希少なため、彫刻家にとって大きな原石との出会いは非常に嬉しく興奮する一瞬です。

 小さなカメオの場合、持ちやすくするために松脂でワインのコルクに縞メノウを留めて彫刻します。

手彫りカメオのために切断された縞メノウ原石
コルクで留められたカメオ

(2) デッサン

 素材である石と対話しながらモチーフを選定し、デザイン画を描きます。デザイン画が完成すると縞メノウの表面に鉛筆で下絵をします。彫刻を進めていく過程で表面が削られその下絵は消えてしまうのですが、彫刻家は困る様子もなく彫刻を進めます。下絵はあくまで大枠に過ぎず、細かい設計図はすべて頭の中に入っているのです。

彫刻台に置かれていたデザイン画
「四天王」2018年 ゲルハルド・シュミット作
彫刻後のカメオ
「四天王」2018年 ゲルハルド・シュミット作

(3) 彫刻

 「彫刻」と聞くと、先端が回転する工具を持ち、それを石に押さえつけて彫っていると思いませんか。ちょうど歯医者さんが虫歯の治療をするようなイメージです。しかし、実際にはその逆で、固定された回転工具に、素材である石を手に持ち押し当てて彫刻していくのです。固定された筆に、半紙を動かして書道をするようなイメージでしょうか。想像しただけでその難しさが伝わってきます。また、ストーンカメオの素材である縞メノウは大変硬いため、通常の金属工具だけではきれいに彫刻することができません。そのため、油にダイヤモンド粉末を混ぜたものを回転工具の先端に付着させ彫刻するのです。あるいは、ダイヤモンドを工具自体に含ませて使う場合もあります。

作業台に置かれた様々な工具(シュミット工房)

 この回転工具は、彫刻段階や彫刻内容に応じて形状の異なる数十種類が用いられます。彫刻家によっては100〜200種類を使い分けるケースもあり、その繊細な作業にはただただ驚くばかりです。これら回転工具はすべて彫刻家本人によって作られ、この工具を自分で作ることが彫刻家の第一歩だと言われているのです。

大型カメオの彫刻風景(ゲルハルド・シュミット氏)
1860年頃使われていた彫刻工具
ヤモリの手彫り彫刻(アンドレアス・ロート作)

三沢 一章(みさわ かずあき)

長年に渡りドイツジュエリーを研究。イーダーオーバーシュタインの宝石を日本に紹介すると同時にストーンカメオの研究家でもある。

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